本:多くを教えてくれる

息つく間もない狂気と暴力がてんこ盛り!

「ダイナー」

平山夢明



 平山夢明(ひらやま ゆめあき)は実話系ホラー短篇、実録サイコ物のほか「独白するユニバーサル横メルカトル」や「メルキオールの惨劇」など、グロいホラー作品も数多く発表している作家。私の初・平山作品は「デブを捨てに」という短編集。タイトルのインパクトに釣られて読んでみたのだが、彼は長編の方が面白そうだと思い、大藪春彦賞と日本冒険小説協会大賞をダブル受賞したという「ダイナー」を読んでみた。
 この作品は主人公の一人称で語られている。
そして、冒頭からその主人公・オオバカナコが自分が埋められる穴を掘っているシーンで始まる。
30代、バツイチのオオバカナコは事務用品問屋に勤めている。手取りは12万円。そんな彼女が【求む運転手。報酬三十万。軽リスクあり】という携帯闇サイトの募集に軽い気持ちで電話したことで人生が一変する。待ち合わせ場所に30分遅れてやってきたのはディーディーという女とカウボーイハットをかぶった変な男。カナコの仕事はヤクザから金を奪った2人の逃走用運転手だった。当然、強盗は失敗しカナコと強盗カップルは捕えられてしまう。
カウボーイハットは凄惨な拷問により死亡。カナコとディーディーは人身売買のオークションにかけられる。買い手がつけば生きられるチャンスはあるが、買い手がつかなければ頭を割られて埋められてしまう。2人は自分が埋められる穴を掘らされ、いよいよ絶体絶命に。しかし、カナコの頭が潰されようとしたその瞬間、とっさに機転を利かせたカナコに指名がついた。
カナコは、殺し屋相手に料理を提供する会員制のダイナー「キャンティーン」に9人目のウェイトレスとして買われた。キャンティーンの店長はボンベロという凄腕の料理人で凄腕の元殺し屋だ。カナコの前にいた8人のウェイトレスは客(殺し屋)のオモチャになって死んだという。
「俺はここの王だ。ここは俺の宇宙であり、砂糖のひと粒までが俺の命令に従う」「勝手なことは許さない。おまえは俺の許可なしに、ここから出てはならない」仕事をミスればボンベロに殺される。ミスらなくても客に殺される可能性大。365日24時間休みなし。“今判断を誤ったら殺される”という極限状態で働かなければならない。
しかし、キャンティーンに来てから14時間と23分後、カナコはボンベロの逆鱗に触れ「ウェイトレスの生存記録の最短を更新した」(訳:お前はもう死んでいる)と告げられる。
何度も絶体絶命に陥るオオバカナコ。彼女を待つ運命とは!?
 作者の平山夢明が「ステーキにしゃぶしゃぶに寿司にカツ丼とハンバーグを載っけたような贅沢な読み物にしたかった」という本書。まず、怒涛の展開に一気に引き込まれる。そしてキャンティーンにやって来る一癖も二癖もある常連客たちにすっかり心を奪われてしまうのだ。
顔も身体も傷跡だらけだが優しい性格でスフレが大好物の爆破屋スキン。
品のよい老紳士と共にやって来た10歳くらいの男の子は、度重なる整形手術で子供にしか見えないが、実は中年のキッドという殺し屋。キッドは餓死寸前のホームレス老人を拾っては身なりを整え、用済みになるまで連れ歩いている。
他にも店に来ると赤ん坊返りしてしまう超甘党の大男ジェロや、犬歯の入れ歯で相手を噛み殺すボイル、元堕胎医のソーハ、ボンベロの元恋人で彼に近づく女は皆殺しにしようとする美しい暗殺者、炎眉(えんび)など、残酷で個性的で、それぞれ悲しい生い立ちやトラウマを抱えたキャラクターが次々に登場する。ボンベロの相棒でイチゴが大好きなブルドックの菊千代も忠実な殺し屋だ。
 閉ざされたダイナーという空間で次から次へと繰り広げられる血なまぐさい暴力。グロ描写が極端に苦手な人は読めないと思うが、本書は現実離れしたキャラクター陣とストーリーが完全にエンターテインメントとして進行するので割と平気で読めるのではないだろうか。読んでいるうちに感覚が麻痺してくるというのもあるが…。
 主人公のカナコも美人を思わせる描写は無いが、魅力的。機転が利いて悪運が強くタフな女性で、自分が埋められる穴を掘っている時も(自分たちを埋めようとしている男達は、少し前に人間のオークションの話をした。もし自分に利用価値があれば、少なくとも今ここで殺されなくても済むんじゃあ?)と考える。半分埋められても(全然動けない、土ってすごい)と妙なことに感嘆しつつ、必死に命乞いをする。かと思うと、キャンティーンで自分が磨いた便器を「舐めろ」とボンベロに命令されると「嫌よ」と言ってしまったり。(ここでボンベロから「ウェイトレスの生存記録の最短を更新した」と告げられる)
ちなみにウェイトレスの制服はアンナミラーズに似せたもので、30代のカナコは「気恥ずかしいけど文句が言えるはずもない」と渋々着用している。
終盤に登場する九十九九(つくもきゅー)という人物はヘラヘラしていて見るからにアル中という外見でありながら実は潜入捜査官で、最期は結構いい死に方をするのだが、残念ながらウンコを漏らしてこのウェイトレス服を着ている。そんな九の姿を見てカナコは(何もかもが失敗してるニューハーフみたい)と思っている。
 次々と現れる殺し屋と美味しそうな料理。さらに、中盤からは恋愛というテイストも微量に加わる。しかし、そんなラブロマンスでハッピーエンドなオチになるはずもなく、甘ったるい終わり方はしていない。
平山夢明は学生時代にホラー映画を自主制作したり、デルモンテ平山というペンネームで映画・ビデオ評論を書いているので表現も映像っぽい。読後感も映画を観た後の感覚に似ている。私としては、ラストでもっと裏切られても良かったのだが、この終わり方もまた映画的。タランティーノやロドリゲス、コーエン兄弟あたりに実写化して欲しい世界だ。
著者あとがきに書いている「グゥの音も出ないほど徹底的に小説世界に引き摺りこみ、窒息させるほど楽しませようとしている」という言葉通り、極上のエンタテイメント小説だ。
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