本:多くを教えてくれる

新しい視点の人類史

「銃・病原菌・鉄」
Guns, Germs and Steel The Fates of Human Societies
    ジャレド・ダイアモンド



 著者はUCLA(カリフォルニア・ロサンジェルス校)医学部の教授で分子生理学と進化生物学を専門としている人物。本業の他にも考古学・人類学・言語学・歴史学などに詳しく、長年亘りニューギニアで現地調査も続けている。
本書は、著者があるニューギニア人に受けた「あなたがた白人は、沢山のものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私達ニューギニア人には自分のものといえるものがほとんどない。それは何故だろうか?」という質問に対する回答、という形で構成されている。

はるか昔、同じような条件でスタートしたはずの人類が、なぜ異なる発展を遂げたのか。
なぜ人類発祥の地、アフリカの民族が世界を支配することがなかったのか。なぜスペイン人たちは100名程度の軍隊でインカ帝国を征服できたのか、といった問題を探究している。
そして、この問題に対し「白人の遺伝子が優れているから」という短絡的な考え方をせず、「たまたま他と比べて白人の住む環境が優れていたから」という結論を出している。その上で、白人が他民族を征服する際に破壊的な影響を与えたものが、タイトルになっている「銃・病原菌・鉄」だと考察している。スペイン人はこれらを持っており、インカ帝国は持っていなかった。中でもペストや天然痘などの病原菌は、免疫力を持たない人々を凄まじい勢いで死に追いやった。多くの先住民族は戦いで殺されたのではなく、彼らが持ちこんだ伝染病によって死んでいったのだという。

では、白人の住む環境は具体的にどう優れていたのだろうか?
東西に長いユーラシア大陸では、中国で発明されたものがアラビアを経てヨーロッパに伝わるというふうに、他文明の技術を取り入れやすい交易路が存在していた。その相乗効果で技術水準はどんどん高まっていった。
さらにユーラシア大陸は、栽培可能な植物や家畜化できる動物にも恵まれていた。その家畜と接することで、動物がもたらす伝染病に対する免疫力も発達していた。南北アメリカ、オーストラリア、アフリカと決定的に違っていたのは、まさにこれらの要因だった。
それでは、なぜアフリカやアメリカ、オーストラリアでは農業や牧畜が広がらなかったのか?
例えば家畜に関していえばユーラシア大陸には、馬・羊・豚・牛・ヤギなどが存在している。一方、アフリカは野生動物の数こそ多いが、家畜に向いている動物がいなかったのだ。
家畜として理想的なのは草食動物(肉食動物の餌を見つけてくるのはかなりコストがかかるため)であり、おとなしい性質でなければならない。シマウマなどは馬の代わりになりそうだと私たちは考えてしまうが、シマウマは猛烈に凶暴で人になつかない生き物らしい。カバも同様で、アフリカでの野生動物による死者の数はカバによるものが最も多いほど狂暴だという。
このように、家畜化の条件を満たす動物はユーラシア大陸には何種類も存在していたが、他の大陸にはほとんどいなかったというのが著者の説だ。
農業に関しても同様で、栽培に適した植物がユーラシア大陸にはたまたま数多くあったが、その他の大陸では限定されていたという。

農耕によって定住生活が可能になり、他文明を征服できるような技術が発達する。そして、定住生活により食糧生産に余裕ができた社会では、農耕に直接携わらなくても良い構成員(王侯貴族、戦士、職人、司祭など)が生まれる。これによって、文化的にも優位性を持った社会がつくられていく。
人口増加とともに、社会はいくつかの特徴を持った構造に分かれていくが、本書ではそれを仮に4つに区分し、社会構造を比較している。
1つ目は小規模な血縁集団社会で、「バンド」とも呼ばれるもの。
2つ目は「部族社会」。小規模血縁集団(バンド)の集合体で、“ビッグマン”と呼ばれる世話役が居る場合もある。
3つ目は「首長社会」。ここで身分の差が発生する。知らない人間同士が増え、さまざまなトラブルも発生するので、特定の人物やグループに取りまとめを頼むことになる。やがて階級は固定化し、首長が統治する社会へと変化していく。
そして4つ目は「国家」。ただし、これは決して“進化”ではない。これらは単純に人口の多さに適した社会形態というだけで、構造自体に優劣はない。しかし、後者になるにつれて社会としてはより強くなり、他の社会を併合しながら拡大していくことになる。
しかし、著者によれば技術力の差はそれだけでは決まらないという。個別の社会がもつ保守性の違いが大きな要因なのだそうだ。結局今も昔も、変化を恐れず新しいものを面白がる社会は革新的な技術を発明できる社会であり、保守的・懐疑的な社会より優位に立てるという事だろう。

本書を要約すると上記のような内容だが、こうした結論に至るまで気象学・生態学・進化生物学・地質学・古代生物学など、非常に広範な分野での考察や最新の研究による裏付けがあり、著者の考え方は非常に論理的である。
原書の2005年度版からは日本について書かれた「日本人とは何者なのか?」という章が追加されており、こちらの内容は日本人として甚だ疑問で、批判も多いようだ。それでも、壮大な人類史にまつわる新しい視点は興味深く、専門知識がなくても楽しく読める1冊である。


本トップ