本:多くを教えてくれる

いまを生きる高齢者たちのリアル

「老人たちの裏社会」

新郷由起



 近年、高齢者による殺人や傷害事件などの犯罪は珍しくない。“老害”という言葉もよく耳にするようになったし、レベルの低い迷惑行為も増えた。
これは高齢化社会になって老人の割合が増えたのが原因なのか、それとも他に理由があるのか…
今現在“老後”の真っ只中にいる老人たちのリアルな姿を知りたくて手にした1冊。
 本書は、以下のような構成になっている。
第1章:万引き/第2章:ストーカー/第3章:暴行・DV/第4章:売春/第5章:ホームレス/第6章:孤立死/第7章:生き地獄化する余生/そして各章の合間に4つのコラム。
 老人の万引きが増えているという事は知っていたが、今や万引き犯の3人に1人が65歳以上だという。かつては万引きというと青少年の犯罪というイメージだったが、今は「分別ある人生の大先輩である高齢者の万引きをアルバイト学生がたしなめる時代」になっているそうだ。
中でも男性は生活困窮者が多く捕まると早々に罪を認めて謝る率が高いのに対し、女性は常習者が非常に多く、捕まっても泣いたり認知症のフリをする演技派も多いという万引き対策コンサルタントの話は興味深かった。やはりいくつになっても女性の方がしたたかということだろうか。
第2章の「ストーカー」では、高齢男性が女性の善意を自分への特別な好意と勘違いして暴走するケースが紹介されている。
ストーカー加害者の約9割は男性だというが、70歳になっても80歳になっても男性は性的欲求が存在し続けているという。女性側は“お爺さんに親切した”だけのつもりでも相手は“運命の相手”だと一方的に思い込み、暴走する。取材を続けるなかで自身も高齢男性3人からストーカー被害を受けたという著者は、老人は“性のない存在”という認識を改めるべきだと唱えている。
第3章の「暴行・DV」は自己中心的で傲慢な“キレる高齢者”について。
男性の場合、旧世代の家制度や亭主関白思想を持っている人も多く、そういう人は根強い男尊女卑意識がある。また、かつて軍隊や会社組織で上層部にいた人ほどエリート意識が強く、気位も高くて、非を認めるどころか「自分こそ正しい」と絶対に譲らないという。
暴力をふるうのはほとんど男性だが、中には夫が衰えて足腰が弱るのを待って報復に転じる妻も存在するという話は恐ろしかった。男性がすっかり忘れているようなことでも、女性は恨みに対する記憶が鮮明で、年を重ねて澱のように積もった凄まじい恨みをずっと覚えているという。
筑波大学名誉教授で『情動認知行動療法研究所』所長の宗像恒次氏は「年を追うごとに、昔出来たことが出来なくなるといった不安やストレスも増え、加齢により不安物質とされるノルアドレナリンが出やすくなります。さらに、抗不安感を司り副交感神経の働きを強める、沈静物質のギャバ(ガンマアミノ酸)の分泌低下に伴う影響も大きい。(中略)そもそも、己の価値や評価を他者に委ねてきた生き方を転換する必要があるのです」「裏を返せば、暴力やDVなどの行動に出る高齢者は、成熟しないまま老齢期に入ってしまったとも言えるでしょう」と述べる。
そうは言ってもヨボヨボの老人が相手なら、腕力で勝てるんじゃないか?という気もするが、理性を失い感情のブレーキがきかない状態になった高齢者男性の暴れ方は凄まじく、大人2~3人でも止められないこともしばしばあるそうだ。
第6章の「孤立死」では、多くの孤立死の現場に立ち会った遺品整理専門会社『キーパーズ』の吉田太一代表は次のように語っている。
「孤立死の現場が総じてゴミの山になりがちなのは、ゴミ出しのルールが分からないからなのです」「生活全般を奥さんに頼り切っていた男性ほど、失った途端に『ないない尽くし』になる。整理整頓、食事の支度、ゴミ出しの他、地域交流、身内との連絡など、どれもお手上げ状態となってしまう。なかでもゴミ出しは一度間違った出し方をして注意されると、恥と体裁から家の中へ溜め込む傾向が顕著です」
また、第7章「生き地獄化する余生」では、高齢者の自殺問題が取り上げられている。著者は「注視すべきは、自ら命を絶たなくても余命の知れている人間が、自死を選ぶ決意をさせるほど、老いの生活と人生に絶望している現実だ」と述べる。「60年以上を生き抜いてもなお、残りの数年、十数年を生き続けるより辛い老年期を迎えている真実を読み解かなければ、老人の自殺の減少は望めないだろう」と。さらに「あとがき」には次のように書いている。
「医療の劇的な進歩により、そう簡単には死なせてもらえなくなった。(中略)誰もが長く生き続けられるようになったら、死ぬよりも、上手に老いることの方が難しい時代になってしまった」
 以前読んだ「最貧困女子」という本に、周囲の人たちと上手くコミュニケーションを取り、助け合って暮らしていける人はどん底に堕ちないと書いていたが、これは高齢者にも当てはまる。大企業の役員や先生と呼ばれる立場の人ほど、老後の新たな共同体で行き詰まる人が多いというのも、このコミュニケーション能力が欠如している(常に上から物を言う、頭を下げることができない)からだろう。
著者によると、この暗いテーマの本が意外にも売れており、読者も想定していた50代男性だけでなく、20~80代まで幅広い層の男女が読んでいるという。年齢にかかわらず、誰もが「他人事じゃない」と自分の老いを考える時代になっているのだと思うと著者は述べている。
いまの高齢者たちが生きてきた時代は戦後から高度経済成長期を経てバブルの狂乱、そして崩壊という、まさに激動の時代だっただろう。そんな中で“自分自身が充足できる生き方”を見つけられなかった人が多いのは仕方のないことなのかもしれない。
これから先、高齢者はもっと悲惨な状況になるのではないだろうか。外的要因や他者からの評価でしか充足感を得ることができない生き方をしていると、気づいた時には本書に登場するような老人の一人になっているかもしれない。老いてから穏やかな日々を過ごすためには、他力本願ではない“自分自身の幸せ”を見つけおくべきだ。人生は何が起こるか分からない。しかし、どんな時も年相応の立ち居振る舞いができる人間でありたい。自分なりの“老いの美学”について今から考えておく必要性を切実に感じさせられた1冊だった。

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