映画:忘れられない一瞬がある

「カサノバ」
Casanova



稀代のプレイボーイを爽やかに描いた快作




 監督のラッセ・ハルストレムは「ギルバート・グレイプ」や「サイダーハウス・ルール」「ショコラ」など心温まる作品で知られるスウェーデンの名監督。本作は、18世紀に実在したジャコモ・カサノバ(1725年~1798年)を主人公にした軽妙なコメディである。実在のカサノバはヴェネチアで役者の子として生まれ、イタリアの名門・パドヴァ大学の法学博士号を持ち、天文・化学・数学・古典文学に造詣の深い教養人であり、同時に賭博師・冒険者という凄い才能の持ち主。そして何よりも歴史上最高のプレイボーイとして知られている。
彼が晩年に綴った「回想録」によると、彼は1000人ほどの女性と関係を持ったという。しかも、別れた後も女性に対して手紙を欠かす事なく、人としての付き合いを継続したとか。彼は単なる色事師ではなく、相手を尊重し、望みを充分にかなえた上で自らの自由も維持し続けた魅力的な人物だったという。そんな男性、モテない方がおかしい。カサノバの生き方は多くのヨーロッパ作家に刺激を与え、舞台やバレエをはじめ映画化も何度もされている。中でも有名なのはフェデリコ・フェリーニ監督、ドナルド・サザーランド主演の「カサノバ」(1976年)だろう。他にも「豪傑カサノヴァ」(1954年)、マルチェロ・マストロヤンニ主演の「カサノヴァ 70’」(1964年)、アラン・ドロンが晩年のカサノバを演じた「カサノヴァの最後の恋」(1992年)など、さまざまなカサノバ像が描かれてきた。
 ラッセ・ハルストレム監督が描いた「カサノバ」は、数え切れないほどの女性を手玉にとったカサノバが一人の女性に夢中になるという物語になっている。奔放すぎるふるまいで教会から追われるカサノバ(ヒース・レジャー)は、次のカーニバルが終わるまでに結婚相手を見つけなければ、ヴェネチアを追放すると宣告される。さっそく富豪の令嬢ヴィクトリア(ナタリー・ドーマー)を口説いて婚約を取りつけた彼の前に、男勝りの剣の腕と知性を持つ女性、フランチェスカ(シエナ・ミラー)が現れる。自分がカサノバだという事を隠していた彼の前で、何も知らないフランチェスカはカサノバ批判を展開、女性観や恋愛観についても学識あるカサノバと対等に議論を戦わせるのだった。フランチェスカとの出会いはカサノバに衝撃を与え、激しい恋に落ちてしまう。フランチェスカは親の決めた結婚相手・パプリッツィオとの縁談が決まったばかりだという事が判明するが、カサノバは自分がそのパプリッツィオだと偽り、ヴィクトリアそっちのけでフランチェスカに接近。
フランチェスカも、目の前の男がカサノバだと知らないまま彼に惹かれていく。同じ頃、ヴェネチアでは乱れた風紀を正すべく、ヴァチカンからプッチ司教(ジェレミー・アイアンズ)が送り込まれていた。彼の狙いは異端者カサノバの逮捕、そして若い女性の間で人気となっている進歩主義の思想家・グアルディの逮捕だった。プッチ司教はこの2人の正体を突き止めようとするが、グアルディとは実はフランチェスカの仮の姿だった。
カサノバとフランチェスカに危険が迫る中、カサノバに騙されたヴィクトリアやパプリッツィオらも加わり2人の周囲は大騒ぎに。果たしてカサノバは危機を回避し、愛を成就させることが出来るのか?
 次から次へとドタバタ騒ぎが巻き起こるストーリーは、底抜けに陽気でテンポがいい。お調子者で口も達者なカサノバは、フランチェスカとその家族、パプリッツィオ、プッチ司教を相手にことごとく正体を偽り、ヴィクトリアも言いくるめて難を逃れようと嘘の上に嘘を重ねていく。そのため物語はややこしくなっていくのだが、最後はそれらのエピソードが鮮やかにまとまっていく見事な展開。カサノバを題材にしながら健全な作風に徹している所もハルストレム監督らしい品性が感じられる。まだ女性に対する束縛が厳しかった時代に女性の権利を主張し、解放を訴えるフランチェスカは立派だし、それを尊重するカサノバも素晴らしい。キャラクターの設定がしっかりしているので、カサノバとフランチェスカが惹かれ合う過程にも無理がない。
 本作で描かれるカサノバは、単なる女たらしとは違い、愛嬌があってちょっとお茶目なタイプの男性だ。
その憎めない感じがヒース・レジャーの持ち味にぴったり合っていた。ヒロインのフランチェスカ役には、オーディションで選ばれたシエナ・ミラー。他にもカサノバを捕えようとするプッチ司教に「キングダム・オブ・ヘブン」の名優ジェレミー・アイアンズ、フランチェスカの母親アンドレアにハルストレム監督夫人であるレナ・オリンなど豪華な顔ぶれが脇を固めている。カサノバと婚約する令嬢ヴィクトリア役のナタリー・ドーマーの怪演もお見事である。ヴェネチアの景色をバックにしたアクションシーンをはじめ、本物のサン・マルコ広場に再現されたカーニバルの美しさや豪華絢爛な衣装、小道具も必見。ハルストレム監督らしさが根底に流れつつも、実に爽快で楽しいロマンティック・コメディだ。

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