映画:忘れられない一瞬がある

「フォーン・ブース」
PHONE BOOTH


電話ボックスを中心に展開するサスペンス




脚本はB級ホラーの監督兼脚本でマニアから絶大な人気を集めるラリー・コーエン。監督は「タイガーランド」でコリン・ファレルとコンビを組み、今回が2度目となるジョエル・シューマカー。
本作の撮影期間はたった10日だったという。本編も81分という短さ。だからこそ観客を飽きさせない作品に仕上がっているとも言える。監督のシューマカーも初めての試みで、昼休みなしの強行シフトを敷いたとか。ちなみに撮影に使われたセットの電話は通じていて、コリン・ファレルは犯人の台詞を読み上げるスタッフの声を聞きつつ演技していたそうだ。また、エキストラにはストーリーが一切告げられず、日を追うごとに明らかになる展開を誰もが楽しみにしていたらしい。そんな周囲のリアルな反応も作品の緊張感を盛り上げているように感じられる。
 口先だけで世間を渡ってきた自称一流のメディア・コンサルタント、スチュ(コリン・ファレル)は、アシスタントを従え、クライアントや業界相手に口八丁でビジネスをまとめ上げていた。彼はアシスタントと別れた後、電話ボックスに立ち寄り、結婚指輪を外して新進女優・パメラ(ケイティ・ホルムズ)に電話をかける。スチュは彼女をモノにしようと狙っていたのだ。
しかし、パメラを口説けず受話器を置くスチュ。その時、たった今使っていた公衆電話のベルが鳴り、思わず受話器を取ってしまう。すると電話の声は彼に「電話を切ったらお前の命はない」と告げる。スチュの胸には赤外線の標的マーク。なぜ自分が標的になっているのか分からないまま、彼は電話ボックスから出られなくなってしまった。しかし、長電話に苛立った娼婦たちと小競り合いになり、スチュを引きずり出そうとした用心棒のレオンが犯人に射殺されてしまう。娼婦らは、スチュが殺したと騒ぎ出し、やがてパトカーや狙撃隊、報道カメラなどが集まって全国に生中継されることに。レイミー警部(フォレスト・ウィテカー)が、スチュを説得しようとするが、犯人は、本名を言うな、本当のことを話すな、とレイミー警部の殺害もほのめかしながらスチュを追い込んでいく。
やがて、ニュースを見た妻ケリー(ラーダ・ミッチェル)やパメラまで現れ、犯人は妻と恋人に真実を告白して謝罪しろ、群衆やテレビカメラの前でこれまでの悪行を告白しろ、と迫る。
電話ボックスから出て来いと説得するレイミー警部。
なぜ自分がこんな目にあわなければいけないのか…焦りといら立ち、そして追い詰められたスチュはどうするのか?はたして無事に電話ボックスから脱出することは出来るのか?
 受話器を握ったまま、一人芝居状態のコリン・ファレルの演技は見ものだ。自惚れた自称敏腕コンサルタントが、どんどん情けない男に変わっていく過程を見事に演じ切っている。シューマカーが「この役はコリン以外に考えられなかった」と語っていたのも納得できる演技力だ。
スチュが懺悔するシーンは、惨めで愚かな人間の虚飾が剥がされるクライマックスでもある。平気で人を騙して虚勢を張り、自分は成功していると思い込んでいたのが、ほんの数十分で引っくり返される。プライドをズタボロにされ、浮気心を妻にメソメソ告白し、それがニュースで大々的に放送される。メディアを操っていたつもりの主人公がメディアの晒し者になってしまう、という皮肉な結果は痛快でもあった。
実はこの激白シーン、本編はいくつものカットで構成されているが、NGなしの一発撮りだったというから驚きだ。
 そして、この類の映画にありがちなのが、主人公の状況を全く理解しない警察の存在だが、本作には(いくらアメリカでもそれはないだろう)という強引な発砲や突入シーンはなく、きっちり警察としての仕事をこなしている。中でもフォレスト・ウィテカー演じるレイミー警部が良い味を出している。
犯人の設定も面白い。知的で威厳のある口調は、ただ者ではないことを感じさせる。この犯人の正体は最後の最後に分かるのだが…これが某大物俳優でびっくり。全編ほぼ声だけ、最後にちらっと出て、それまでのコリン・ファレルの熱演を根こそぎ持って行ってしまうおいしい役どころだ。
 この作品は“電話ボックスから動けなくなった男が、全く正体の分からない犯人によってじわじわと追い詰められていく”というシンプルな設定に、テンポ良く様々な要素を盛り込んだラリー・コーエンのアイディア勝ちだろう。
街は人であふれ、すぐ近くに大勢人がいるのに助けを求めることができない。ガラス張りなのに、その中で何が起きているのか誰にも分からない。犯人からはこちらの姿が丸見えで、しかも細かい事まで全て知られているという完全に不利な状況。しかも、どんな方法で脱出を試みてもことごとく失敗に終わる。観客が「こうすれば逃げ出せるのでは?」と思う手段を、まさにそのタイミングでスチュが実行し、見事に犯人に見透かされる。観ている側までハラハラ、ドキドキさせられ、スチュと同じ心境にさせられる。
“映画は脚本ありき”とはよく言われる言葉だが、本作はまさにそのお手本だ。
 “平気で人を騙していると、いつか天罰が下る”というメッセージが込められているようにも思える本作、何とも言えない消化不良な後味が残ることで逆に印象づけられる。また、ひょっとしたらスチュにとってこの事件は良い薬になったのでは?と思えてしまう所も面白い。電話ボックスの後方にあるショーウィンドーに「Who do you think you are?」(あなたは自分を何者だと思う?)と掲げてあるのも意味深だ。
嘘をつかず、清廉潔白に生きることの難しさを考えさせられると同時に、自分の日頃の行いをちょっぴり反省させられる作品でもあった。

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