映画:忘れられない一瞬がある

「アイデンティティー」
Identity



謎が謎を呼び驚きの結末へ




 マイケル・クーニーによる完全オリジナルの脚本がとにかく素晴らしい作品。プロデューサーもこの脚本に相当に惚れこんでいたという。監督は「17歳のカルテ」「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」「ナイト&デイ」「ウルヴァリン: SAMURAI」などを手掛けたジェームズ・マンゴールド。出演はジョン・キューザック、レイ・リオッタ、レベッカ・デモーネィといった個性派俳優をはじめ、一癖も二癖もありそうな役者陣が脇を固めている。
 物語は2つのシーンが入れ替わり進行する。冒頭、精神科の医師マリックが連続殺人犯マルコムの診察録音テープを聞いている。マルコムの母親は売春婦で、彼は母親に捨てられ施設で育つ。彼はアパートの住人6人を自分の誕生日に殺害し、死刑が確定していた。
 ここで豪雨が降り続く中、ポツンと建つモーテルに場面が変わる。モーテルの管理人ラリー(ジョン・ホークス)の所に怪我人が運びこまれる。元人気女優カロライン(レベッカ・デモーネィ)の運転手エド(ジョン・キューザック)が人身事故を起こしたのだ。事故に遭ったのは中年女性アリス(レイラ・ケンズル)で、夫のジョージ(ジョン・C・マッギンリー)と息子のティミー(ブレット・ローア)が付き添っていた。モーテルの電話は天候不順のため不通、携帯も圏外だったため、エドは病院まで車を走らせる。その途中、故郷へ帰ろうとして車が故障した娼婦パリス(アマンダ・ピート)
に乗せてほしいと頼まれる。パリスを乗せてしばらく走っていたが豪雨のため道が冠水し、仕方なく引き返すことに。そこに新婚夫婦のルー(ウィリアム・リー・スロット)とジニー(クレア・デュヴァル)の乗った車がやって来て、4人はモーテルへと向かう。
 夜更けに電話が鳴る。電話に出た判事は、死刑判決を下した事件の再審理が今から始まると聞いて驚く。再審理の内容は囚人の書いた日記のことで、弁護側が判事に同席を求めているという。その日記に重大な事実が書かれている可能性があるらしい。明日が死刑執行予定の囚人は現在移送中ということだった。
 モーテルに、囚人ロバート(ジェイク・ビジー)と、彼を移送中の刑事ロード(レイ・リオッタ)がやって来る。これでモーテルに集まったのは11人になった。その晩、洗濯機の中からカロラインの頭部が発見され、その後ルーとロバートも何者かによって殺害される。さらにジョージが事故で死亡し、アリスも息を引き取った。死体の傍にはなぜかモーテルのルームナンバーキーが10、9、8…とカウントダウンのように置かれていた。エドは、ジニーとティミーをモーテルから逃がそうとするが、車が爆発炎上する。不可解な事に、火を消し止めた後、2人の死体も他の死体も消えていた。残された4人は疑心暗鬼になる。ロードがラリーを銃殺し、ロードとエドは銃で撃ち合って2人とも死亡。生き残ったパリスは翌朝ホテルを後にして故郷に戻る。そして、長年の夢だったオレンジ畑を営む。ある日、庭の木の根元に何か埋まっていることに気づいたパリスが掘り返してみると、それはモーテルのルームナンバーキーの1だった…。
 実は、偶然モーテルに集まったように見えた11人には意外な共通点があった。それは全員誕生日が5月10日だということ。全ては必然だったのか?だとしたら、11人がモーテルに集まった理由は?ルームナンバーキーと消える死体。謎に包まれた連続殺人事件と死刑囚の再審理が行われている執務室。この2つの物語にはどんな関係があるのか?
 登場人物が1人、また1人と殺され、その死体がいつの間にか消えるという展開、モーテルが100年前の大水飢饉で全滅した先住民墓地跡にあるという設定からは、ホラー的な不気味さも感じられる。囚人、泥棒、先住民の悪霊など、怪しい要素が盛り込まれ、緊迫した状態で話が進むので、観る側も誰が真犯人なのか推理しながら飽きずに鑑賞できる。この展開は「そして誰もいなくなった」のようなオチなのか、それともホラー系の流れに持っていくのか?と考えていたのだが、予想を完全に裏切る展開に驚かされた。そして、ネタが分かった後もサスペンスとして楽しめるのがこの作品の巧いところなのだ。
 出演者もクセ者揃いで、特に下まつげが不必要に長くて濃い顔の個性派俳優レイ・リオッタは、問答無用で怪しい!と思わせる役どころ(褒め言葉)。サイコな悪役を演じたらピカイチのレイ・リオッタ演じる刑事のロードは、パトカーに無線機があるのに「無線は通じない」の一点張りで使わないし、死体の傍にあるルームナンバーキーを発見するのも必ずレイ・リオッタ。しかし、このいかにもなキャスティングも作り手の計算なのだ。「マルコヴィッチの穴」で独特の個性を見せたエド役のジョン・キューザックもいい味を出している。
 本作は、サスペンスとして使い古されたネタでも脚本次第で面白く出来るというお手本のような作品だ。真相が明らかになった後、パズルがカチッとはまるように全ての謎が解ける快感は良質のサスペンスならでは。未見の方はなるべく予備知識を入れず、騙される醍醐味を味わっていただきたい。

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