映画:忘れられない一瞬がある

「フィリップ、きみを愛してる!」
I Love You Phillip Morris



笑って泣いて感動できる天才詐欺師のラブ・コメディー




 リュック・ベッソン率いるヨーロッパ・コープ製作作品で、製作総指揮はベッソン本人。監督は、これまで「バッドサンタ」や「キャッツ&ドッグス」などの脚本を手掛 け、これが監督デビューとなるグレン・フィカーラとジョン・レクア。刑務所で運命の出会いをするゲイの二人を、ジム・キャリー、ユアン・マクレガーという二大俳優が 演じている。
 心停止を知らせるブザーが鳴り響く中、朦朧とした意識の中でスティーブン・ラッセル(ジム・キャリー)は子供の頃を思い出していた。ヴァージニアに住むスティーブ ンは良き夫、良き父であり、信仰深い警察官だった。スティーブンが警官になったのは、実母を捜し出して自分を養子に出した理由を聞くためだった。ようやく見つけ出した実母の家を尋ねたスティーブンは、実母が兄弟の中で自分だけを養子に出していた事を知る。しかも実母に冷たく追い返されてしまう。この出来事をきっかけに退職し、 家族を連れてテキサスに引っ越したスティーブンは、ある日、大事故で一命を取りとめ「もう、自分の人生に嘘はつかない!」と決心する。自分はゲイであると妻(レスリ ー・マン)にカミングアウトし、離婚して恋人・ジミー(ロドリゴ・サントロ)とフロリダでゴージャスな生活を楽しむが、ゲイライフにはお金がかかる。スティーブンは 詐欺に手を染め、とうとう刑務所に。この刑務所でスティーブンは、フィリップ・モリス(ユアン・マクレガー)に一目惚れしてしまう。金髪、碧眼、ゲイのフィリップは 中庭を怖がり、これまでスティーブンの目に留まらなかったのだ。スティーブンは、あの手この手で距離を縮め二人は刑務所の中で愛を育む。その後、先に出所したスティ ーブンは弁護士になりすまし、フィリップを早期出所させる。フィリップとの生活を始めたスティーブンは経歴を偽り、とある会社の最高財務責任者に着任する。スティー ブンの能力は高く評価され仕事は順調。しかし、順調すぎる暮らしにマンネリを感じはじめたスティーブンは横領を始める。フィリップは、今まで以上に金回りの良くなっ たスティーブンを怪しむが、「隠すことは何もない」と嘘をつきフィリップを何とか納得させる。しかし、スティーブンの羽振りの良さに違和感を持った同僚がこっそり調 査し、スティーブンの横領を突き止める。横領がばれたことに気づいたスティーブンはフィリップと逃げようとするが、嘘をつかれていた事に激怒したフィリップは家を飛 び出してしまう。再び逮捕されたスティーブンだったが、どうしてもフィリップに気持ちを伝えたい。何度も脱獄しフリップに会いに行くスティーブン。脱獄を繰り返すた びに厳重になる拘束、頑なに会おうとしないフィリップに天才詐欺師スティーブンが取った最後の手段とは…?
 愛する相手のためにIQ169の天才的頭脳(一般的にIQ120以上は秀才、IQ140以上は天才と呼ばれる)を使って詐欺と脱獄を繰り返し、最後は懲役167年を言い渡されたステ ィーブン・ラッセルの実話に基づいた愛と脱獄の物語。最初はジム・キャリーとユアン・マクレガーという、おっさん二人のラブコメ!?と思いながら鑑賞したのだが、観て いるとお似合いの恋人同士にしか見えなくなってくるから不思議だ。これは主演二人の演技力によるものだが、際立っているのがユアン・マクレガーの演技力。あの勇者オ ビ=ワンを演じたユアンが内気で繊細なフィリップを見事に演じている。ゲイ役というと、派手なオネエだったりナヨナヨしたオカマになりがちだが、ユアンは、見た目や 喋り方を一切変えず、ナチュラルなまま演じている。スティーブンの愛情溢れる行動に感動して、目をウルウルさせながら抱きつく仕草は乙女そのもの。終盤のビンタも秀逸で、何度も見返してしまった。そして、天才詐欺師スティーブンを好演したジム・キャリーは、本人が「制作にお金を出してでも出演したいと感じたのは『トゥルーマン ・ショー』『エターナル・サンシャイン』そしてこの作品だ」と語っているように、前髪を剃って額を大きく見せたり、壮絶なダイエットで役作りを徹底している。
 この作品が面白いのは、コメディーとシリアスのバランスが上手く取れているからだろう。そして、スティーブンの周囲が良い人ばかりというのも物語を温かくしている。元妻は離婚後もスティーブンの相談相手になっているし、元恋人のジミーも別れた後も交流を続けている。それは、スティーブンの愛情が真っ直ぐで、そこに嘘はないことを知っているからだろう。詐欺や脱獄が犯罪として裁かれるのは当然だが、スティーブンは個人を酷い目に合わせている訳ではない。ただひたすら愛する人を喜ばせたい一心で何度も詐欺を働き捕まる。この天才的な頭脳を法に触れないように上手く使っていたら、フィリップとの生活をずっと続けられたのに…と思わずにはいられない。実在のフィリップは2006年に釈放され、スティーブンは現在もテキサスの刑務所に収監されている。人を殺傷していないのに懲役167年というのは異例の判決だそうだが、それだけ彼を持て余しているという事らしい。二人は現在も文通を続けているというのが救いだ。スティーブン(本人)は映画化の話を聞き、しかも恋人役がユアン・マクレガーと知って大いに喜んだとか。ちなみに、本物のフィリップはクライマックスの法廷シーンでスティーブンの弁護士役としてカメオ出演している。
 愛する人に苦労をかけさせたくないから詐欺を働くスティーブン、愛する人と一緒にいられるだけで良かったフィリップ。二人のすれ違いは切ないが、疾走感に溢れた物語は突き抜けていて爽快ですらある。ラブ・コメディーでありながら、ゲイ映画という枠を超えた純愛作品でもある名作だ。

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