映画:忘れられない一瞬がある
「華麗なる賭け」
The Thomas Crown Affair


アメリカ 映画が大人の娯楽だった時代の素晴らしい作品





 弁護士のアラン・R・トラストマンがTVドラマを見て、 こんなものなら自分でも書けるのではないかと思い、本当に2ヵ月で書いてしまった銀行強盗の物語。その脚本をエージェントから手に入れたノーマン・ジュイソン監督が、その独創的なストーリーに魅せられて映画化を決め、製作・監督を引き受けることになったのが本作である。
 ノーマン・ジュイソン監督はこの前年に「夜の大走査線」でアカデミー賞を受賞しており、最も脂の乗っていた時代に作られた作品だと言えるだろう。  「華麗なる賭け」は、とにかくスタイリッシュ。カメラアングル、テクニック、衣装、小道具と、斬新な映像表現が満載である。マルチスクリーンを駆使した映像や、後にデ・パルマ映画の専売特許となった360度カメラ・パン、チェス・シーンでのクローズアップの数々など、後世の映像業界に多大な影響を与えた表現の数々は、今見ても充分斬新である。
 主役は 男が惚れる男 スティーヴ・マックイーン。スーツ姿で葉巻をくゆらせる大金持ちの実業家を演じている。派手なアクションや銃撃シーン、カーチェイスは登場しない。しかし、本作はスティーヴ・マックイーンらしくない役柄でありながら、マックイーンの格好良さが最も良く出ている作品であると思う。スティーヴ・マックイーン38才。彼も脂が乗っている時代の傑作である。
 そして、フェイ・ダナウェイ演じるベッキーは、まるでファッションショーのように衣装が変わり、こちらもスタイリッシュ。60年代ファッションに身を包み、セクシーな魅力を披露している。
 物語の主人公、トーマス・クラウン(スティーヴ・マックイーン)は、大金持ちの実業家だ。ある日、彼はかねてより計画していた銀行強盗を実行し、見事成功する。トーマスは奪った金に自分の金を足して、ジュネーブの銀行に預金した。  ボストン警察のマローン刑事(ポール・バーク)は、事件調査に乗り出したが、手がかりは何も得られなかった。一方、被害を受けた銀行が加入していた保険会社は、犯罪追及に特別な熱意を持つビッキー(フェイ・ダナウェイ)に調査を命じた。ビッキーはマローン刑事と協力しながら自分自身でも調査を行い、実業家トーマス・クラウンを黒幕と睨んで自らの身分を明かして彼に接近する。それからの2人の親密ぶりは、マローン刑事が本気で心配するほど恋人同士に近く、事実ビッキーは疑惑を持ちながらも、次第にトーマスに心惹かれていくのだった。  その頃、トーマスは最後の冒険を試みて南米に逃げる決心をして、それをビッキーに打ち明け、一緒に南米に行こうと誘う。そして、銀行強盗は前回と同じように実行され、成功したかに見えた。しかし、トーマスの車が盗んだ金を受け取るべき場所に来た時、そこにはビッキーとマローン刑事が多数の警察を従えて待ち構えていた…。
 作品の中で、自分が持っていないものを得る為に目標を定めて行動するビッキーは、自信満々にトーマスに近づく。しかし、最初から全てに満ち足りているトーマスとは住む世界が全く違っている。大金持ちなのになぜ銀行強盗を働いたのか、ビッキーがトーマスに尋ねるシーンがある。しかし、トーマスには目的など存在しないのだ。彼は銀行強盗を実行する(というよりも赤の他人に実行させる)が、それはポロやグライダーやサンドバギーのようなスポーツと同じ次元なのだ。満たされていること自体にも飽き、心配事など見当たらないと思える状況で、自らの心配事は 自分の気まぐれ心 というトーマスとビッキーの違いは、ラストシーンで飛行機の中で微笑するトーマスと、彼からの手紙を受け取って泣き崩れるビッキーとの対照的な姿として映し出される。
 本作は 賭け と言うよりも、大人の恋の 駆け引き と言った方がぴったりくる。お金で買えない何かを常に求め続けるトーマス・クラウンの雰囲気に、ミッシェル・ルグランの「風のささやき」(アカデミー主題歌賞受賞)の哀愁を帯びた曲が良く合っている。
 ちなみに、「華麗なる賭け」は1999年に「トーマス・クラウン・アフェアー」としてリメイクされ、同曲をスティングが歌っている。  一般人とは全く別世界の住人 大富豪トーマス・クラウン 。スティーヴ・マックイーンは、自分の今までのイメージと全く対極なこの役を熱望したと言うが、ノーマン・ジュイソン監督も同じように語っている。  『「主人公はスーツ姿のインテリで、君のイメージじゃない」と言うと、「だからこそ、やりたい」と引かなかった。今までと異なった役を演じてさらに飛躍したかったのだろう。主人公は色々な点で彼の理想像だったのかもしれない。頭脳明晰、知的教養があり洗練されていて、家柄もよく上品でスマートである…彼にないものばかりだ。』  このような作品は一歩間違うと金持ちが好き勝手をしているように見えて(実際好き勝手をしている訳だが)反感を買ってしまいがちだが、トーマス・クラウンを見事に演じ切ったスティーヴ・マックイーンのカリスマ性によって、彼は魅力的なキャラクターとなり、観る者の憧れを誘うことに成功している。大富豪の恋とゲームの駆け引きというストーリーでありながら、観客に爽快感すら与える所がこの作品の素晴らしさであり、それはやはりスティーヴ・マックイーンの魅力に依る所が大きいと言えるだろう。

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