映画:忘れられない一瞬がある

「きっと、うまくいく」
3 Idiots



笑えて、泣けて、元気になれる。インド映画の傑作!




 今やハリウッドを上回る映画が制作されている映画大国インド。その中でもムンバイ(旧ボンベイ)を拠点にヒンディー語で制作された映画はハリウッドをもじってボリウッド映画とも呼ばれている。「きっと、うまくいく」は、そんなインド映画の中でも最高傑作の一本に数えられており、当時のインド映画歴代興行収入1位を記録し、インドのアカデミー賞といわれるフィルムフェア賞でも16部門を受賞した大ヒット作である。監督のラージクマール・ヒラニはボリウッドを代表するヒットメーカーとして知られる人物。また、主人公のランチョーを演じたアーミル・カーンは父も叔父も従兄弟も映画関係者で、本人も子役からキャリアをスタートしているインド映画界のスーパースターだそう。撮影時の実年齢はなんと44歳だったらしいが、彼自身が持っている明るさが役柄と見事にマッチして、魅力的な主人公を演じている。インド映画では、〝ナヴァ・ラサ〟(恋・笑い・悲しみ・怒り・勇猛・恐怖・嫌悪・驚き・静寂)という9つの感情が盛り込まれた作品が多い。これら全てを必ず入れなければならないというルールはないが、「きっと、うまくいく」の評価が高いのは、この9つの感情全てが見事に織り込まれているからと言われている。
 主人公のランチョーとファルハーンとラージューの3人は、インドでも有名な超難関工科大学の寮で同室になる。動物写真家になりたいが、幼い頃から父親にエンジニアになるように言われ続け、仕方なく工科大に進学したファルハーン。極貧生活の中、家族の期待を一手に背負って進学したプレッシャーから常に神に祈りを捧げているラージュー。そして常にポジティブで自由人のランチョー。物語は彼らが卒業して10年が経った現在から始まる。
 大学時代、ランチョーに屈辱的な目に遭わされた優等生のチャトゥルが、将来どちらが出世しているか10年後に再会しようと言った、まさにその日。卒業以来、親しかったファルハーンとラージューの前からも姿を消し行方知れずになっていたランチョーの居場所をチャトゥルが突き止めたという。そこで、親友の2人とチャトゥルの3人は彼が居ると思われる避暑地のシムラに向かうことに。ランチョーの謎を追う現在の物語、そして10年前の波乱万丈な学生生活、2つの物語が同時進行で描かれていく。
型破りで自分の考えをはっきり言う性格のランチョーは、成績を上げるために過度な競争を煽る学長のやり方に疑問を持ち、対立してしまう。学長はあらゆる手でランチョーたちに恥をかかせようとするが、ランチョーは柔軟な発想でうまく切り抜けていく。ファルハーンとラージューもランチョーの生き方に影響され、いつもつるんで騒動を起こしていたため周囲から3バカトリオと呼ばれながら楽しい学生生活を送っていた。ところが、ランチョーが学長の娘ピアと恋仲となった事を知った学長は激怒し、3人に退学を命じる。卒業出来ない事を悲観したラージューは自殺未遂を起こすがランチョーの励ましで再起し、進路に悩んでいたファルハーンもランチョーの後押しで夢だった動物写真家への道を進む事になる。ある大雨の日、妊娠中だったピアの姉が産気づくが大雨の影響で救急車がなかなか来ず、しかも停電になってしまう。産まれた赤ちゃんは心肺停止状態になるが、ランチョーの機転で無事回復する。それを知った学長はランチョーとピアの交際を許し、退学命令も撤回するのだった。しかし卒業の日、ランチョーは何も言わず姿を消す。なぜランチョーはいなくなってしまったのか。どうしてピアと結婚しようとしなかったのか。ついにランチョーの家にたどり着いた彼らは思いもよらない真実に直面する。はたしてランチョーの正体は?再会を果たした3人の結末は…。
 コメディあり、友情あり、学歴社会へのアンチテーゼあり、さらにロマンス、ミュージカル、家族愛と、内容がぎっしり詰まっていながら見事にまとめられているので、話が進むほどに引き込まれ、170分という長い作品でありながら最後まで全く飽きずに楽しめる。近年のインドはIT大国として名高い反面、カースト制度の影響が根強く、日本よりもはるかに厳しい学歴社会らしい。貧困層が人口の6割を占めるため、女の子なら医師、男の子ならエンジニアにすれば自分の老後は安泰だと考えるのがインドの親の典型だと言われている。そんな期待やプレッシャーによるストレスから自殺する若者が多い事も社会問題になっているとか。ランチョー、ファルハーン、ラージューの実家も、上流、中流、貧困層に設定されていて、抱えている悩みもそれぞれ異なっている。これが現在のインドのリアルな姿なのだろう。人を蹴落としてでも一番になれ、出世しろと教える学長と、そんな学長に反発するランチョー。有言実行のランチョーは「大学は試験の点数をとるのではなく学ぶ場所だ」と言い、本当に実力で学年トップを取ってしまう。他人と順位を競いあうことに何の意味があるのか。本当に幸せな人生を送るためには何が必要なのか。そんな本質を突いたランチョーのセリフには深く考えさせられる。
 とはいえ原題の「3 Idiots(3バカ)」が示すように基本はコメディなので笑えるシーンも満載。終盤は涙あり、笑いありの展開で、まるで彼らと一緒に青春時代を過ごしたような爽快感が残る。競争社会の中で自分自身を見失うよりも、自分らしく生きることの大切さ、人生の本質とは何かを問いかける本作は、競争社会で生きる日本人の心にも深く響くのではないだろうか。本当に好きな事をやれば、人生はきっと、うまくいく。そんなメッセージに勇気づけられ「All is well」のフレーズを一緒に口ずさみたくなる、そんなハッピーな作品だ。

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