映画:忘れられない一瞬がある

「コンドル」
Three Days of the Condor



諜報機関の陰謀を描いた硬派サスペンスの傑作




  原作はジェイムズ・グレイディの「コンドルの六日間」という小説。映画では原作の時間を半分にしたことで内容も凝縮され、面白いサスペンス映画に仕上がっている。監督のシドニー・ポラックは1985年に「愛と哀しみの果て」で作品賞をはじめアカデミー賞計7部門を獲得、自身も監督賞で初のオスカーに輝いた名監督。他にも「追憶」「トッツィー」「雨のニューオリンズ」などの名作を数多く残している。俳優から監督に転身した人物なので、「トッツィー」や「アイズワイド・シャット」「フィクサー」等に出演もしている。
 この作品はポリティカル・サスペンス(政治サスペンス)に分類されるのだが、オープニングは拍子抜けするぐらいのんびりとした雰囲気で始まる。街の一角に建つアメリカ文学史協会のビル。1Fの受付には初老の女性が座り、所長と警備員が談笑している。書棚の前では職員たちが楽しそうに議論を交わしている。いつも通りの日常、そこへ遅刻常習犯のターナー(ロバート・レッドフォード)が出勤してくる。それを遠くに駐めた車の中から見ている男。その後、ターナーは雨の日にはいつもしているように裏口からランチを買いに出かける。実は、このアメリカ文学史協会というのはCIAの下部組織であり、彼らはみなCIA職員なのだ。彼らの業務は日々発行・出版される雑誌や新聞を読んで、そこに隠されているかも知れない暗号コードや秘匿情報などを分析することだった。ターナーが買い出しから帰ってくると、同僚は全員殺されていた。車の中から協会の職員が全員揃うのを窺っていたのはプロの殺し屋で、裏口から出て行ったターナーだけが偶然助かったのだ。
 ここから物語は急加速する。CIA本部に電話したターナーはコードネームを聞かれ、コンドルと答える。
CIAから身の安全を確保して待機するよう指示されたターナーは、パニックに陥りながら連絡を待つ。
CIAではコンドルの報告を受けたニューヨーク支局次長、ヒギンズ(クリフ・ロバートソン)が調査にあたる事になり、ターナーの友人・サムと情報部のウィクスが向かうことになった。しかしヒギンズに指定された場所にやってきたターナーに、ウィクスは銃を向ける。何とか逃げ出したターナーは、病欠していた同僚のハイデッカーのアパートを訪ねてみるが、彼も既に消された後だった。ターナーは通りすがりの写真家・キャシー(フェイ・ダナウェイ)を強引に拉致し、彼女の住んでいるアパートに身を隠す。しかし、彼の元に暗殺者ジュベール(マックス・フォン・シドー)の影が忍び寄る。〝読み屋〟と呼ばれる末端組織がなぜ狙われたのか?
ターナーの同僚たちはどうして皆殺しにされたのか?理由も分からないまま孤立無援の戦いが始まる…。
 オープニング、15分にも及ぶ〝溜め〟の演出がとにかく見事だ。消音銃での寡黙な殺戮、響くのはタイプの音だけ。あまりのリアルさに思わず息を呑んでしまう。このオープニングで、観客も何が何だか分からないままターナーの行動を追うことになり、ハラハラドキドキさせられたまま最後まで目が離せなくなってしまうのだ。また、スパイ活動は素人のコンドルが、分析してきたミステリー小説の手口を使って逃走し、真相を追うストーリーも面白い。一本の鍵からホテルの部屋を割り出したり、電話一本で敵の繋がりを突き止めたり。
最初はパニックになっていたコンドルが反撃に転じる様子も小気味良い。
 この陰謀の背景にあるのは、中東を巡る石油の利権だ。中東の油田とオイルマネーで利益を得ようと裏で情報戦を画策していること、その実体をたまたまターナーのレポートが的中させていたこと。協会の職員達が殺されたのは、莫大な利益を得る陰謀を成功させるための工作だったのだ。本作はフィクションだが、国益のためなら国民を多少犠牲にしてもかまわないという国家の恐ろしさ、リアリティを見事に描いている。
 本作ではロバート・レッドフォードの迫真の演技はもちろん、フェイ・ダナウェイの美しさにも注目だが、特に素晴らしいのが、プロの殺し屋ジュベールを演じたマックス・フォン・シドーの存在感だ。枯れた雰囲気の殺し屋を存在感たっぷりに演じていてカッコイイ。特にターナーとジュベールがエレベーターで2人きりになるシーン。無言の恐怖と緊張でピリピリした空気が伝わって、手に汗握る緊迫感だ。素人のターナーに翻弄され、彼に興味を持ったジュベールの行動も心憎い。殺し屋なのに、ラスト近くで見せる微笑は優しく魅力的なのだ。スウェーデン出身のマックス・フォン・シドーは1973年、当時44歳にもかかわらず「エクソシスト」で老齢のメリン神父を演じ一躍有名になった。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」や「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」にも出演している名優である。
 物語はクリスマスのニューヨークで終わる。ハッピーエンドともバッドエンドとも取れる結末、聖歌隊を背景に去るコンドルの姿とともに深く考えさせられるラストシーンだ。シンプルなストーリーだが、多くを語らず、説明くさいセリフもない。全編を通じて落ち着いたトーンで、派手なカーアクションも銃撃戦もない。アクション一辺倒で中身のない映画に飽きた人、本当に映画を楽しみたい人におすすめの大人向け一級サスペンスである。

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