映画:忘れられない一瞬がある

「殺したいほどアイ・ラブ・ユー」
I Love You to Death



ユーモラスで愛がいっぱい詰まった 癒し系ブラック・コメディ




 1984年、ペンシルベニア州で実際に起こった殺人未遂事件を基にしたブラック・コメディ。監督のローレンス・カスダンは、「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」、「レイダース/失われたアーク」「スター・ウォーズ/ジェダイの復讐」の脚本を手がけた後「白いドレスの女」で監督デビューを果たした人物。「白いドレスの女」では綿密に計画された殺人がテーマだったが、本作では全く逆のドタバタ殺人騒動をコメディタッチで描いている。
 ピザ屋を経営する陽気なイタリア人、ジョーイ(ケヴィン・クライン)は、敬虔なクリスチャンだが、ホルモンが有り余っている浮気男で、働くのも一生懸命だが浮気も一生懸命。妻のロザリー(トレイシー・ウルマン)を愛しているが、多くの女と浮気を繰り返している。ロザリーはジョーイを信じきっていて、浮気をしていることなど全く知らない。密かにロザリーに想いを寄せているアルバイトの青年ディーヴォ(リヴァー・フェニックス)が、ジョーイの浮気を忠告してもロザリーは信じない。しかし、図書館でジョーイが他の女と浮気している現場を目撃してしまう。激しく動揺したロザリーは、母親のナージャ(ジョーン・プロウライト)に相談する。ロザリーが「殺してやりたい」と言うと、「殺人なんて、アメリカでは国技みたいなもんだから、誰も捕まらないよ」と、躊躇するロザリーを焚きつけ、ジョーイを殺す計画を立てるナージャ。
 最初はナージャが知り合いの息子を雇って襲わせるが失敗。2度目は機械いじりが得意なナージャがジョーイの車を爆破しようとするが失敗。そして、3度目は睡眠薬をたっぷり入れたミートソースを食べさせて殺そうとする。ジョーイを眠らせた2人だが、自分達で手を下すことが出来ない。そこで2人はディーヴォを呼び出し射殺して欲しいと頼むのだが、弾丸が命中してもジョーイは死なない。困った3人は、ジョーイの知り合いであるハーラン(ウィリアム・ハート)とマーロン(キアヌ・リーブス)を呼び寄せて殺害を依頼する。ところが2人は麻薬常習者でとにかく挙動不審。混乱した状況の中で何とか銃を撃った2人だったが、やはり弾丸が当たってもジョーイは死ななかった…。  この作品は、今となっては実現不可能な競演や、この役者さんがこんな役を演じることは2度とないだろうな、という役柄を見られるという点で貴重だ。女にだらしなく、でも不思議と憎めないイタリア男というキャラクターは、ケヴィン・クラインにピッタリ。冒頭で、神父に何人と浮気したかを告白するシーンから笑わせてくれる。そんな彼を一途に信じ続ける妻ロザリーは、ユーゴスラビア人という設定で、母親とは時々自国語で話す。この母親役のジョーン・プロウライトが怪演。タブロイド記事のスクラップをしたり、ハンダで何かを作ったりと、謎な人物である。娘婿のジョーイとは気が合わなくて、誰よりも彼を殺す気満々。ある意味1番の危険人物だ。そして、ディーヴォを演じるリヴァー・フェニックス。彼がコメディ作品に出演しているというだけでも貴重なのだが、パワーストーン占いやスピリチュアルに凝っている男の子を好演している。撮影当時19歳、長髪でヒッピー風な格好がとてもキュートだ。本作は「インディ・ジョーンズ」と「マイ・プライベート・アイダホ」の間に位置する作品だが、こういう作品を観ると、もし彼が生きていたら40歳半ば…どんな役者になっていたんだろう、とつい考えてしまう。そして、ジャンキーの従兄弟同士という役柄のウィリアム・ハートとキアヌ・リーブス。演技派ウィリアム・ハートのロン毛ジャンキー姿も貴重だが、何といってもキアヌの演技とは思えないようなアホっぷりと、まだらハゲスタイルが抜群に面白い。心臓が右にあるか左にあるか分からなかったり、歩いていてドアにぶつかったり、子供部屋にあるゴジラの人形にビビったり。また、アンクレジットだがジョーイがディスコで口説く女性をケヴィン・クライン夫人のフィービー・ケイツ、ディーヴォの弁護士役をカスダン監督が演じている。ジョーイがボーリング場でナンパした女の子はヘザー・グラハム、図書館でジョーイといちゃついている女の子はシェリル・リーという「ツイン・ピークス」繋がりもあったりして、出演陣が本当に豪華なのだ
。  意外にも、ファンの間でこの作品のキアヌは人気が高い。キアヌは「スピード」で大ブレイク後、スターダムまっしぐらかと思いきや、実は太りやすい体質であることが判明し、膨らんだりしぼんだりしてファンをやきもきさせたり、私生活ではホームレスと酒盛りしているところや、ぼっち姿が度々パパラッチに激写されたりと、スターらしからぬ姿が話題になる不思議な人物でもある。なぜかキアヌの〝ぼっちフィギュア〟まで発売されて、訳の分からない方向で人気者なのも謎だが、キアヌの本気を出せば相当カッコいいのに、自分の容姿や地位名誉に全く頓着しないキャラクターが魅力なのだろう。
 この作品が映画用に創作されたフィクションであれば全く面白くないのだが、実話に基づいていると思いながら観ると楽しめるのも不思議だ。しかし、公開当時は興行的にパッとしなかったため、カスダン監督は本作以降この種の軽いテーマを扱っていないとか。当時は独特なユルさが理解されなかったのかもしれないが、今観ても十分面白いし、豪華な出演陣たちの絶妙な演技を楽しめる作品としても貴重だ。観終わったあと、ハッピーな気分になれるブラック・コメディである。

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