映画:忘れられない一瞬がある

「殺しの分け前」
Point Blank



ブアマンが紡ぐ混沌と眩惑の世界




 原作は、リチャード・スタークの人気小説〝悪党パーカー〟シリーズの一編「人狩り」。タイトルの「ポイント・ブランク」というのは「至近距離」という意味である。監督のジョン・ブアマンはスタンリー・キューブリックの友人だが、日本ではあまり知られていない映画作家の一人で、「脱出」「未来惑星ザルドス」「エクソシスト2」などの代表作があるが、基本的に奇抜な作品ばかり撮っている鬼才である。この作品も、あまりにも難解な内容だったため、配給会社がお蔵入りにしようとしたところを主演のリー・マーヴィンが説得して、何とか劇場公開されたという過去がある。ちなみに、メル・ギブソン主演の「ペイバック」は、本作と同じ原作を再映画化したものだが、分かりやすいストーリーで印象も全く違うのが面白い。
 冒頭、〝 Starring LEE MARVIN〟の字幕が出るのと同時に、主人公ウォーカー(リー・マーヴィン)が撃たれるという衝撃的なオープニングで物語が始まる。銃で撃たれたウォーカーは、刑務所の独房で目覚める。そこは廃墟となったアルカトラズ刑務所であった。ウォーカーは、ここに至るまでの経緯を回想する。ウォーカーは、戦友のマル(ジョン・ヴァーノン)からアルカトラズ刑務所で行われている犯罪組織の闇取引に乗じて、彼らの現金を強奪する計画を持ちかけられる。マルは多額の借金を抱えており、返済するにはこの計画を実行するしかなかったのだ。ウォーカーとマル、そしてウォーカーの妻リン(シャロン・アッカー)はアルカトラズ刑務所の闇の中に潜み現金の強奪に成功するが、その額が予想より少ないことが判明する。マルはウォーカーを撃ち、以前から密かに通じていたリンとともに現金を持ってアルカトラズを去った。そして、撃たれたウォーカーが海の中に入っていくシーン、次のカットで彼はスーツを着てアルカトラズ巡りの観光船に乗っている。観光船で出会ったヨスト(キーナン・ウィン)と名乗る男から「自分はマルの居場所を知っている。マルに奪われた金を取り戻す手伝いをするかわりに、自分が組織を牛耳るために手を貸して欲しい」と持ちかけられる。ウォーカーは、その申し出を承諾し、マルとリンが暮らしているという家を訪れるが、マルは不在。リンはマルが自分から去って行ったことをウォーカーに告げ、寝室で薬物を飲み自殺する。リンの妹クリス(アンジー・ディキンソン)がマルの新しい情婦であり、ナイトクラブを経営していることを知ったウォーカーは、クリスの協力を得てマルを捕まえるが、金は組織に納めた後だった。動揺してウォーカーから逃げようとしたマルは、ビルの屋上から転落死してしまう。
 改めて組織から金を取り戻す決心をしたウォーカーは、徐々に核心に迫っていく。そして、ついに突き止めた組織の黒幕・フェアファックスは、最初に声をかけてきたヨストだった。ヨストはウォーカーを利用して他の幹部たちを始末させるように仕組んでいたのだ。ヨストはウォーカーに一緒に組もうと誘うが、応じないことが分かると金の包みを置いて去っていく。しかし、自分の分け前を要求していたウォーカーは最後まで姿を現さなかった…。
 物語の大まかな筋立ては、親友と妻に裏切られた男の復讐劇というスタイルなのだが、フラッシュバックを多用しているため過去と現在が入り乱れ、何が何だか理解できないほどのスピードで物語が展開する。撃ったり殴ったりするシーンのたびに似たようなフラッシュバックが挿入されるのでウォーカーの目的が何なのか、いつの回想なのかよく分からない。しかし、この説明の少なさゆえにいろいろな解釈が可能であり、カルトムービーとして好きな人の間では評価が高い作品でもある。一部では、実はウォーカーは冒頭のシーンで死んでおり、彼の亡霊が裏切り者たちに復讐しているという解釈がある。確かに瀕死の重傷を負ったウォーカーがアルカトラズから脱出できるのか?という疑問が残るし、彼が亡霊だと考えると辻褄の合うシーンも多い。一方で、この作品全体が〝主人公が死ぬ間際に見た夢〟という解釈もあり、こちらも死のイメージを連想させる不気味なフラッシュバックを多く用いていることなどを考えると一理ある。ブアマン監督は、ブルーレイのコメンタリーで「何通りもの解釈ができるのはいいことだ。私がどうこう言う気はないよ。」「映画は多様な解釈があってこそ面白いんだ。だからわざと曖昧に撮った。」と言っている。
 この作品で最も注目すべきなのは、復讐のために手段を選ばず執拗なまでに追い詰めていくウォーカーが、自分では誰一人殺していないということだ。そして、ウォーカーはファースト・ネームを持っていない。これらが意味するところは何なのか?この作品はリベンジ・ムービーというジャンルでは括れない多くの謎が秘められている。
 主演のリー・マーヴィンのクールで渋い演技はハードボイルドな雰囲気も充分。本作のリー・マーヴィンは白髪頭で初老のような風貌だが、実は当時43歳だったというのも驚きだ。合わせ鏡のなかで延々とメイクをするリンの姿や、ウォーカーが地下道からマルの家にたどり着くまでコツコツと鳴り続ける靴音などの独特な演出、原色が入り交じったサイケデリックなセットや60年代ファッションの色彩が非常に前衛的な本作は、芸術作品としても一見の価値アリ。すんなり納得できるオチを望む人には不向きかもしれないが、難解さゆえにさまざまな想像を膨らませることができる作品なので、映画好きな方はぜひ一度鑑賞していただきたい。

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