映画:忘れられない一瞬がある

「続・荒野の用心棒」
DJANGO



根強いファンも多いマカロニ・ウエスタンの傑作




 マカロニ・ウエスタンの草分け的存在だったセルジオ・コルブッチ監督の代表作。マカロニ・ウエスタンというのは1960年~1970年前半に作られたイタリア製西部劇を指すもので、欧米ではスパゲッティ・ウエスタンと呼ばれていたものを、故・淀川長治氏が「スパゲッティでは細くて貧弱そうだ」ということでマカロニ・ウエスタンと改名した日本独自の呼称だとか。王道のウエスタンが勧善懲悪のストーリーなのに対し、マカロニ・ウエスタンでは一儲けしたいダーティーな登場人物だらけ、そんな男達が繰り広げるド派手なガンアクション、冷静に考えるとひどい主人公なのにエンディングに流れるクールな主題歌にのせられて(カッコイイぜ)と思わせる強引さなど、痛快娯楽アクションの元祖とも言えるジャンルである。「続・荒野の用心棒」という邦題から、セルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」の続編と勘違いされがちだが、この2作は全く関係ない。「荒野の用心棒」の正統な続編は「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」で、この3作品はセルジオ・レオーネ監督のドル箱3部作と呼ばれている。
 本作の舞台は南北戦争後のメキシコ国境に近い小さな村。この村では、人種差別主義者で元南軍少佐のアメリカ人・ジャクソン一派と、メキシコ独立運動の闘士・ウーゴ将軍率いるメキシコ人一派が激しく対立していた。ジャクソン一味に捕まってリンチを加えられていた娼婦マリア(ロレダナ・ヌシアク)を偶然通りかかったジャンゴ(フランコ・ネロ)が救出し、手下を皆殺しにする。その後、ジャンゴが酒場で食事をしているとジャクソン一味が現れるが、ジャンゴは早撃ちで手下を返り討ちにし、翌日子分を全員を連れて来るようジャクソンに言い渡す。翌朝、ジャクソンは40人の手下を引き連れてやって来る。倒木に座って待ち受けるジャンゴ。傍らに置いた棺桶の中から取り出したのは、なんとマシンガンだった。拳銃を抜く間もなくバタバタと倒されていくジャクソン一味。ジャクソンと数名の手下を取り逃がしたものの、ジャンゴは勝利をおさめる。その後、旧知の仲だったウーゴ将軍一味と共に政府の金塊を強奪したジャンゴは、宿で祝杯を上げるウーゴ将軍が信用できず、金塊を盗んでマリアと逃げる。その途中、吊り橋から落ちて金塊は底なし沼に沈んでしまう。さらに追ってきたウーゴ一味に制裁を受け両手を潰されてしまう。しかし、ウーゴ将軍たちも政府軍と結託したジャクソンに襲われ全滅する。かつて愛した者が眠る墓地を決戦の場に選んだジャンゴは、両手が使えないままジャクソンを迎え撃つ…。
 オープニングから棺桶を引きずり、ぬかるんだ道を泥だらけになりながら歩く男の後ろ姿。そこに、インパクトのある赤い文字で「DJANGO」というタイトル。そして流れる「ジャンゴ~♪」というテーマソング。強烈なツカミである。棺桶に始まり墓場で終わるこの作品は、眩しい太陽、乾いた大地といったイメージのアメリカ西部劇とは全く異なり、暗く殺伐とした空気に満ちた異色の西部劇である。登場人物も、まずジャンゴが清く正しいヒーローではない。ジャンゴが殺した人数を考えると、彼も相当な悪人だし、強奪した金塊を全部持ち逃げするあたり非常に人間臭い。しかも金塊は底なし沼に落としてしまうというマヌケさ。しかし、その人間臭さ、格好悪さになぜか感情移入してしまうのだ。アメリカ西部劇には存在しないアンチヒーロー、ジャンゴ。彼はマカロニ・ウエスタンの象徴であり、世界中で愛されている。このジャンゴという名前はコルブッチ監督の発案で、ジャズ・ギターの一人者ジャンゴ・ラインハルトからとったものだとか。大衆に愛される映画を撮り続けたコルブッチ監督の精神とともに、ジャンゴもまた多くのファンを魅了し続けているのだ。B級映画として扱われる事も多い本作だが、意外性のある展開、主人公を絶体絶命の窮地に立たせ、そこから逆転勝利させる痛快感、人物設定の面白さなどを劇画的に誇張しているので観る側を飽きさせない。ジャンゴというキャラクターの斬新さは現代でも充分通用する魅力があるし、登場人物たちによる騙し合い、情容赦ない殺し合の迫力には本来映画が持っている魅力が凝縮されている。
 ただ、この作品は人種差別主義者のジャクソンが、メキシコ人を荒野に放ってライフルで撃ち殺したり、ウーゴ将軍が神父の耳をナイフで削ぎ落として、その耳を神父に咥えさせてなぶり殺すなど、残虐描写が多いことでも有名なので、残虐描写が苦手な人は要注意。(イギリスでは25年間も公開禁止になった)余談になるが、同じく残酷描写が多いマカロニ・ウエスタンでは「情無用のジャンゴ」も知られている。こちらは、あまりにも残酷なためイタリア本国でもカットされて公開されたいわくつきの作品で、強烈に人を選ぶカルト映画と言われている。しかし実はこの作品、アレックス・コックスやジョー・ダンテなどが高く評価しており、ジム・ジャームッシュは本作を元にジョニー・デップ主演の「デッド・マン」を製作している。また、ジャンゴ繋がりで挙げると、日本では三池崇史監督が「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」で「続・荒野の用心棒」にオマージュを捧げている。「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」のオープニングにはクエンティン・タランティーノが登場し、なぜか「平家物語」の一節を英語で唱えながら敵(香取慎吾)を倒す。そして、主題歌「さすらいのジャンゴ」を北島三郎がこぶしの効いた日本語で歌っている。そのタランティーノも以前からマカロニ・ウエスタン好きを公言しており、「ジャンゴ 繋がれざる者」を制作している。もちろん映画オタクのタランティーノなので、オープニングは元ネタのまま。さらに「続・荒野の用心棒」でジャンゴを演じたフランコ・ネロが農園主役でカメオ出演しているのも往年のファンには嬉しすぎる演出だ。
ユーモア精神に富み、誰からも好かれる陽気な人間であったというセルジオ・コルブッチ監督。大衆を喜ばせることだけを考えていたというコルブッチ監督は、観客が喜ぶツボを完璧に心得ている職人監督だった。そんなコルブッチ監督の真骨頂とも言える「続・荒野の用心棒」は、今も多くのリスペクト作品を生み出し続けている不朽の名作と言えるだろう。

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