映画:忘れられない一瞬がある

「 L.A.コンフィデンシャル」
L.A.Confidential


クライムサスペンスの最高傑作





 原作は、天才的で破壊的な文体から〝アメリカ文学界の狂犬〟と呼ばれているジェイムズ・エルロイ。「ブラック・ダリア」「ビッグ・ノーウェア」「L.A.コンフィデンシャル」「ホワイト・ジャズ」からなる〝暗黒のL.A.4部作〟の3作目に当たる。監督・脚本・製作はカーティス・ハンソン。原作では8年にもわたる長大なストーリーを3ヶ月の出来事に短縮しながらも原作を損なわず、非常に面白い作品にまとめ上げた手腕は素晴らしい。エルロイ自身、映画の出来に感心したというが、それも納得である。第70回アカデミー賞では最優秀脚色賞と最優秀助演女優賞(キム・ベイシンガー)を受賞している。
 舞台は1950年代のロス市警。クリスマスの夜、酔っぱらった警官達がメキシコ系移民の容疑者に暴行する事件(血塗られたクリスマス事件)が起きる。バド(ラッセル・クロウ)は、事件に関与していた相棒・ステンスの内部告発を断るが、エド(ガイ・ピアース)は警部補への昇進と引き換えに告発に協力する。ステンスは免職になり、エドは警部補に昇進するが、部署内の人間からは疎まれる。それから数ヶ月後、ダウンタウンのナイト・アウルというダイナーで6人が射殺されるという事件が発生する。バドの元相棒ステンスも事件に巻き込まれ殺害された。ロス市警は捜査を開始、やがて犯人と見られる3人組はエドに射殺され、事件は解決したかに見えた。しかし、事件の背景に「白ユリの館」というハリウッドの有名女優に似せた娼婦たちを紹介する秘密売春組織の存在が浮かぶ。バドは、高級娼婦リン(キム・ベイシンガー)に接近するが、いつしか彼女と恋に落ちる。一方エドは、自分の主義を曲げずに捜査を続け、バドと対立してしまう。そこでエドは、ジャック(ケヴィン・スペイシー)に協力を求め、捜査を進める。すると、事件の背後には街のボスだったミッキー・コーエン逮捕後の縄張り争いが絡んでいる事が明らかになる。事件は、予想よりずっと根深いものだったのだ。売春宿のオーナーも殺され、用心棒の元刑事や関係者が次々と闇に葬り去られる。男たちは事件に翻弄されながらも次第に気づく。「俺たちの敵は、他にいる。」果たして真の黒幕とは…。
 この作品でまず目を奪われるのは、公開当時まだブレイク前だったラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、ケヴィン・スペイシーの存在感だ。エドは警察学校を卒業したエリート刑事。若くして殉職した父の功績を追い抜こうという昇進欲が強く、正義感も強いが現場経験は少ない。打算的な割にあっさり女に騙されてしまう部分もある。バドは暴力的な父親に目の前で母親を殺されたトラウマを持つため、女性に手を上げる男が許せない。しかし、自分の思う正義のためなら偽装も厭わない所もあり、血の気が多く、現場に強い。ジャックは芸能界に繋がりを持つ派手好みな刑事。ゴシップ記者と組み、逮捕劇をスクープさせて裏金を稼いでいるが、頭も切れ、最初に黒幕に気づく鋭さを持つ。麻薬の売人と誤って民間人を射殺してしまったという過去を持ち、風俗課に左遷された後、麻薬課に戻るために手柄を挙げようとする。
 「血塗られたクリスマス事件」でバドとジャックは左遷され、逆に事件を告発したエドは出世する。バドは相棒が標的にされたことからエドに対して憎しみを抱く。この登場人物の敵対関係が物語に緊張感を持たせ、「ナイト・アウルの虐殺事件」をめぐるエドとバドの対立へとスムーズに繋がっていく。また、バドのトラウマは幼い娼婦の惨殺事件へ彼をのめり込ませる。手柄を挙げたいジャックは自分だけが握っている証拠を誰にも知らせず単独で捜査を進める。それぞれの思惑や野心、対立によって事件は別々の流れで進んでいく。この前半でのエピソードやセリフが全て後半へと繋がっていくのだが、物語の中間ではそれぞれのエピソードが絡まり合い、なかなか先が読めない。しかし、何気ない会話や仕草が実は大きな意味を持っていて、後の展開で大きな鍵になっている事が分かると目が離せなくなる。そして、後半では絡まった謎がひとつひとつ解かれていく。実に見事な構成だ。
 本作で印象に残るエピソードに〝ロロ・トマシ〟の話がある。エドが刑事だった父親を射殺した犯人に密かにつけた名前〝罪を逃れ裏でほくそ笑む奴=ロロ・トマシ〟の話をジャックに打ち明け再捜査の協力を請う。このエドとジャックしか知らない 〝ロロ・トマシ〟が、事件解決への大きな手がかりへと繋がっていく。この〝ロロ・トマシ〟のエピソードは映画の完全オリジナル。限られた時間の中にこのエピソードを挿入する事によって、物語がぐっと面白くなっているのは言うまでもない。
 ラッセル・クロウとガイ・ピアースは本作が出世作と言われているが、それも納得の強烈な個性を発揮しているし、ケヴィン・スペイシーの玄人を唸らせる演技もさすが。ジェームズ・クロムウェルの穏やかな雰囲気とは裏腹の迫力ある演技にも渋さが光るし、キム・ベイシンガーの妖艶さにも惚れぼれしてしまう。また、サイモン・ベイカーが不運なバイの俳優マット役でアメリカ映画デビューを飾ったのも本作。ちなみにラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、サイモン・ベイカーともにオーストラリア出身である。
 強力な個性を発揮する役者陣、見事に練り上げられた脚本、あっと驚く展開。何度観ても余韻に浸れる骨太でカッコイイ作品だ。

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