映画:忘れられない一瞬がある

「ルーパー」
LOOPER



最後まで先が読めないタイムトラベルサスペンス




 ライアン・ジョンソンは、監督デビュー作「BRICK ブリック」(2005年)でサンダンス映画祭審査員特別賞を受賞。続いて詐欺師の兄弟がターゲットの未亡人に心惹かれてしまったことからトラブルに巻き込まれるクライムコメディ「ブラザーズ・ブルーム」(2008年)の監督・脚本を手掛ける。その後公開された「LOOPE R/ルーパー」がカルト的な人気を博すなど話題を呼び「スター・ウォーズ エピソード8」(2017年公開予定)の監督・脚本に大抜擢された注目人物である。主人公のジョセフ・シモンズ役には、「インセプション」「ダークナイト・ライジング」のジョゼフ・ゴードン=レヴィット。未来からやって来た30年後のジョセフ・シモンズ役にはブルース・ウィリス。セス役には「リトル・ミス・サンシャイン」のポール・ダノという豪華キャストにも注目。ブルース・ウィリスの若い頃を演じているジョゼフ・ゴードン=レヴィットは、表情や笑いかた、台詞のボヤキっぷりまで完全にコピーしており、ブルース・ウィリスも「自分の若い頃を見ているようだった」と言っていたとか。
 物語の舞台は2044年。それから30年後の2074年ではタイムマシンが開発されているが、使用は法律で固く禁じられていた。30年後の未来では厳しい管理体制が敷かれており死体を処理することが不可能となっている。そこでマフィアは30年前にエージェントを送り込み、ルーパーと称する殺し屋集団を組織させて殺害を依頼することにしていた。マフィアは消したい人物をタイムマシンで204 4年に送り込む。すると、そこに居るルーパーがターゲットをラッパ銃で殺し、死体を処理するのだ。抹殺対象となった人間には銀の延べ棒がくくりつけられており、それがルーパーの報酬となる。しかし、ルーパーはその高額な報酬の代償として契約を終わらせる際、自分自身が抹殺対象となる。他のターゲットと同様に過去へ送り込まれ、過去の自分に射殺されることになっていて、その時の報酬には金の延べ棒が使われる。自ら未来の自分を殺すことを〝ループを閉じる〟と言い、それがルーパーの運命だった。未来の自分を殺せばルーパーの仕事から解放され、莫大な報酬を手にして30年間は何不自由ない人生を送れるのである。
 主人公はそんな2044年のルーパー、ジョー(ヤング・ジョー/ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。ある日、送られてきた未来の自分を殺し損ねループを閉じることに失敗した親友のセスから助けを求められる。ジョーはセスを助けるが、組織に捕らえられたセスは殺されてしまう。セスの死を嘆きクスリに溺れるジョー。そんなジョーの元にも未来の自分が送られてくる。動揺したジョーは未来のジョー(オールド・ジョー/ブルース・ウィリス)を取り逃がし、組織から追われる身になってしまう。金を持って逃げようとするヤング・ジョーの元にオールド・ジョーが現れ未来を変えようとしていることを語る。オールド・ジョーは、最愛の妻を殺されてしまったため、未来の犯罪王・レインメーカーとなる少年シドを幼いうちに殺すために2044年の世界にやって来たのだ。しかし、ヤング・ジョーはループを閉じないと組織から命を狙われてしまうので、オールド・ジョーを殺そうとする。少年シドの元を訪れたヤング・ジョーはシドの母親サラ(エミリー・ブラント)に好意を持ち、彼女たちを守ろうとする。ヤング・ジョーとオールド・ジョー、現在の自分と未来の自分の対決はどんな未来を作り出すのか…。
 過去・現在・未来が複雑に絡まり最初は混乱するが、ストーリー中に挟まれる回想シーンで「なるほど!これがこうなって繋がるのか!」と疑問が明らかになるので、ループ系作品ならではの面白さを堪能することが出来る。また、本作は近未来という設定だが最先端CGを使った映像は登場しない。どちらかというと懐かしいような風景の中で物語は展開していく。冒頭、サトウキビ畑にジョーが立ち、何もない空間から抹殺対象のタイムトラベラーが現れる。と同時にジョーが銃を撃つ。その展開があまりにも瞬間的で、その後の展開に引き込まれていく。特撮技術ではなく、構成の巧さで観せるのだ。過去の人間を傷つけることによって引き起こるタイムパラドックス的な暴力描写も斬新だ。ジョーの親友セスが未来からやってきた彼自身(=老セス)を逃したために組織によって捕えられ、拷問を受ける。その様子が逃亡する老セスの身体が次々と欠損していくという演出で描かれており、指が1本ずつ消え、鼻が削がれ…というふうに古傷を見せる事で残酷な拷問シーンを想像させる手法は見事である。もうひとつ、作品としてのカラーを出しやすいタイムスリップシーンも独特。本作のタイムスリップは何の前兆もなく、ヒョコっと人が現れる。 光線の点滅や、効果音などの演出は一切なく、ヒョコっと地味に現れるのだ。最新技術を駆使し、映像作りにだけ力の入った作品が多いSFの中で、このシンプルさは逆に印象的だ。
 本作の結末は哲学的で、目的は同じでも手段が違う場合どちらを選ぶのが正しいのか、というテーマが根底にある。シドを殺そうとするオールド・ジョーの行為こそがレインメーカーを生み出すという皮肉な真相。
そして、それを止めようとするヤング・ジョーの行為は不幸の連鎖を止め、結果的にオールド・ジョーへの救いにもなっているという展開は感動的だ。SFでありながらヒューマンドラマのような重厚さもある本作は、SFファンでなくても充分に楽しめる名作である。

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