映画:忘れられない一瞬がある

「ラッキーナンバー7」
Lucky Number Slevin



豪華キャストが織りなすクライム・サスペンス




 本作は脚本の構想から映画化まで10年の期間を費したという作品である。綿密に練られたストーリーに加え、構成や間の取り方が上手く、随所に仕込まれた小ネタやインテリア、音楽のセンスも抜群。監督のポール・マクギガンはイギリスのテレビドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」で計4エピソードの監督を務めた人物だけあって、作品の凝り方にもセンスが感じられる。007ネタを出してくる辺りもスコットランド人監督ならでは。豪華なキャスト陣もこの作品に出演した理由を〝脚本の面白さ〟だと語っている。
 物語の冒頭、殺人事件のカットと空港のロビーで車椅子の男(ブルース・ウィリス)が、青年に昔起きた競馬の八百長事件について話るシーンが出てくる。そして、これらにどんな関係性があるのか見当がつかないまま、物語はニューヨークにやってきた青年スレヴン (ジョシュ・ハートネット) の物語に切り替わる。スレヴンは仕事をクビになり、帰宅すれば白アリの発生でアパートは取り壊し、彼女の家に行けば浮気の真っ最中だったので「そのままでどうぞ」と言って、親友ニックを頼りにニューヨークへやって来たのだった。しかし街でチンピラに絡まれて鼻を殴られ、身分証明書まで奪われてしまった。ニックのアパートで目覚めたスレヴンがシャワーを浴び、殴られた鼻の具合を診ていると、けたたましいノックが。訪れたのは、隣に住むリンジー(ルーシー・リュー)という女性だった。彼女は砂糖を借りたいと言って部屋の中に入り込み、ニックの居所を尋ねる。ニックの行き先を探し始めたリンジーが電話を調べると、同じホテルの発信履歴と着信履歴が残っていた。その違和感からニックの消息が気になったリンジーは、スレヴンに一緒に捜索活動を始めようと持ちかけてくる。リンジーが去った直後、スレヴンは謎の黒人2人組に拉致され、腰にバスタオルを巻いただけの姿でギャングのボス(モーガン・フリーマン)の前に突き出される。完全にニックと勘違いされているが、誰も取り合ってくれない。そして、ボスに借金返済の代わりに、向かいのビルにいる対立するギャングのボス、ラビ(ベン・キングズレー)の息子を殺せと命令される。ボス自身も愛する息子を射殺され、復讐のためラビの息子を狙っているが、ガードが固くて近づけない。ゲイの息子に近づくには、若い男が手っ取り早いという考えだった。スレヴンはしぶしぶ了解し、ニックの部屋に戻るが、今度はユダヤ系の男たちに拉致され、ラビの元へ連れていかれる。ラビは貸した金3万ドルを今すぐ返せという。ニックはボスとラビの両方に借金していたのだ。対抗するギャングの陰には伝説の殺し屋グッドキャット(ブルース・ウィリス)の姿もあり、しかも市警のブリコウスキー(スタンリー・トゥッチ)が彼らを車で見張っていた。開き直ったスレヴンはラビの息子でフェアリーと呼ばれている男に接触し、会う約束を取り付けてマンションへ帰る。スレヴンとリンジーは、これら一連の出来事はもしかするとニックが仕組んだ罠なのでは…と疑い始める。そしてついにフェアリーと会う日。絡み合ういくつもの謎と胡散臭い面々。はたして真の黒幕は誰なのか?その目的と結末は…?
 前半はずっと腰にタオルを巻いただけの半裸状態で、格好いいんだか何なんだかよく分からない主人公・スレヴンが次々と災難に見舞われる。両方のボスの事務所、ニックの部屋で繰り広げられる展開はコミカルで面白い。しかし、物語がどう決着するのかは全く見えてこないし、ニックは登場する気配すらない。典型的な巻き込まれ型サスペンスかと思っていると、後半は怒涛の展開でガラリと雰囲気が変わり、何の脈略もないように思えた事件が全て繋がっていく。
 この作品、目の肥えた人なら割と早い段階でオチが読めるかもしれない。しかし、本作の魅力はオチの意外性ではない。物語中盤からテンポよく、あちこちに張られていた伏線を完全にネタバラシしてくれるのだが、その見せ方が非常に分かりやすいのだ。ラストが予想出来るからといって、それがマイナスとは限らない。私は常々思っているのだが、最近の推理物はいかに観客があっと驚くネタを仕掛けるか、ということばかりを意識し過ぎではないだろうか。確かに思ってもみなかった結末に驚愕したり、気持ち良く騙される快感はクセになる。しかし、映画というのは脚本・演出・構成・カメラ・照明・美術・音楽・キャストといった全ての要素が合わさって完成するものだ。そこには途方もない手間暇と作り手たちの情熱や想いが詰まっている。それを〝オチが途中で分かるから駄作〟と切り捨てるのは、あまりにも短絡的だ。どんな作品でも(確かに相性はあるが)良い所、面白い所を見つけようというスタンスで鑑賞すれば、必ず何か得るものがあると思う。小難しい批評ばかり考えるよりも〝映画は楽しく観なくちゃ!〟というのが私の持論だ。この作品もオチが分かったからといって、そこで観る気を失ったりしなかったし、むしろ「やっぱり!」という嬉しさ、答え合わせのようなネタバラシが面白くて最後まで熱中して観ることが出来た。
 不運続きのスレヴンを演じたジョシュ・ハートネットの見事な演じ分け、「ダイ・ハード」のマクレーンとは全く違った雰囲気のブルース・ウィリスも一見の価値アリ。モーガン・フリーマンとベン・キングスレーの悪役ぶりもさすがの貫録。モーガン・フリーマンとベン・キングスレーの対決シーン撮影日は、オフのスタッフも全員2人の演技を見学に来たとか。
 2重3重に張られた伏線を見事に回収する素晴らしい脚本と巧妙なミスリード。爽快感さえ感じさせるラスト。映画の面白さを再認識させられるクライム・ムービーの秀作である。

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