映画:忘れられない一瞬がある

「おかしな・おかしな・おかしな世界」
IT'S A MAD, MAD, MAD, MAD WORLD


愉快・痛快な王道コメディ




 往年の大物俳優やコメディアンなどが多数出演しているスラップスティック・コメディ(体を張ったコメディ)の名作。監督は「手錠のままの脱獄」「ニュールンベルグ裁判」「招かれざる客」などで社会派として知られるスタンリー・クレイマー。1963年アカデミー賞で6部門(撮影賞、作曲賞、歌曲賞、音響賞、編集賞、音響効果賞)にノミネートされ、音響効果賞を受賞。2000年に発表されたAFI(アメリカ映画協会)の映画関係者ら1500人の委員が選んだ『笑える映画ベスト100』の40位にランクインしている。(ちなみに、1位は「お熱いのがお好き」、2位「トッツィー」、3位「博士の異常な愛情」)  この作品は20世紀を代表するグラフィック・デザイナー、ソール・バスによるコミカルなアニメーションのオープニングが必見。ソール・バスは、タイトルバックの在り方を変えた男と言われ、デザイナーとして関わった映画は約60本にのぼる。彼は映画タイトルにコンピュータ・デザインを使った最初の人物で、ヒッチコックの「サイコ」「めまい」「北北西に進路を取れ」やリドリー・スコットの「エイリアン」など数多くのタイトル・デザインを手掛けている。遺作は「カジノ」のタイトル・デザイン。ソール・バスは日本企業にも深い縁があり、味の素、紀文食品、ミノルタカメラなどの企業ロゴは彼の手によるものである。
 物語のオープニングはド迫力のカースタントから始まる。山道を凄いスピードで走る車が何台かの車を危なっかしく追い抜いたが直後、ハンドル操作を誤って谷底へ転落する。追い抜かれた車のドライバーら5人が助けに行くと、運転していた男・グローガンが「サンタ・ロジータ公園の〝ビッグW〟の文字の下の箱の中に35万ドルが隠してある」と言い残し、息を引き取る。そこに、グローガンを追っていた刑事(ノーマン・フェル)が現れたため、5人はグローガンの話を秘密にして引き上げる。しかし、互いの行動が気になる5人は車を降りて話し合いを始めるが、現金を見つけた場合の分け前で主張がかみ合わない。結局、早い者勝ちの現金争奪戦ということになり、みんな我先にと目的地に向かう。その頃、サンタ・ロジータ警察のカルペッパー警部(スペンサー・トレイシー)は、追っていたグローガンが事故死したことを知らされて驚く。カルペッパーは缶詰会社から強奪された35万ドルを追っていたのだ。しかし、部下から事故死の目撃者5人がいると聞き、彼らの後を追えば35万ドルの隠し場所が分かると考えた。そして、彼らが猛スピードで車を走らせ出発したことが、カルペッパーにも伝えられる。欲のかたまりになった連中は、ハイウェイや空を舞台に抜きつ抜かれつの競争を繰り広げながらサンタ・ロジータ公園を目指す。果たして最後に笑うのは誰なのか…。
 まだカーチェイスという言葉すら確立されていない時代に作られた作品だが、山道や街中で繰り広げられる派手なカー・アクションは見応え十分だ。その他にも飛行機の空中シーンや、密室での脱出作戦、はしご車のアクロバットなど、まだCGがない時代のスタントは手に汗握るスリリングさ。この作品の偉大さは、レースものコメディの先駆的作品となったことにあるというが、確かに本作に影響された映画は多いだろう。アメリカ西海岸特有のからっとした気候や青空もこの作品にピッタリだ。そして、やっと大金を手にした所から物語は見せ場になっていく。ラストのどんでん返しまで目が離せない秀逸な構成だ。
 スラップスティック・コメディは、サイレント映画時代に最も流行した。しかし、映画がトーキーに移行し、長編作品が主流になるにつれてストーリーが重要になり、体を張った笑いからセリフ重視の笑いへと変化していったという。しかし、この作品はサイレント時代のコメディへのオマージュを含みながらも、欲に駆られた人々が恥も外聞もかなぐり捨てて相手を蹴落とす醜い姿をシニカルで滑稽なドラマに作り上げている。
 監督のスタンリー・クレイマーが製作出身のためか、多くの有名俳優が出ているのも見所だ。「刑事コロンボ」のピーター・フォーク、「ショウほど素敵な商売はない」のエセル・マーマン、「ティファニーで朝食を」のミッキー・ルーニー、カメオ出演でバスター・キートンも出ている。私は常々シリアスな演技よりも人を笑わせる演技の方が難しいと思っている。本作の出演者たちが繰り広げるドタバタギャグやセリフの応酬も、台本通りに演じればいいというものではないはずだ。やはりコメディには高度な演技力とアドリブセンスの両方が不可欠だろう。そう考えると、俳優陣の技量は本当に素晴らしい。
 次々とタイミングよく見事なまでに壊れるセットを見ていると、スタッフも綿密な計算や打ち合わせをして一生懸命この笑いを追求したんだなぁと思って、つい「アハハ」と笑ってしまう。この手の作品は頭を空っぽにして笑わなければ損だ。往年の鉄板ギャグは懐かしくもあり、観ていて不思議とハッピーになれる。機会があったらぜひ観て欲しいお薦めのコメディ作品だ。


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