映画:忘れられない一瞬がある

「プリシラ」
THE ADVENTURES OF PRISCILLA,QUEEN OF THE DESERT



砂漠に咲いた原色の徒花たち




 シドニーに住む3人のドラァグ・クイーンが主人公のロードムービー。ドラァグ・クイーンとは、歌や踊りを披露する女装したゲイのこと。薬のドラッグ(drug)と区別するためにドラァグ・クイーンと表記することが多い。歴史は古く1600年代のイギリスでは、舞台に女性が上がることが禁じられていたため、男性や少年が女性役もこなしていた。その時に引きずる(drag)ほどの衣装を身につけていたことからこの呼び名がついたという。
 この作品は1994年、カンヌ国際映画祭の〝ある視点部門〟で上映されると口コミが広がり、観客賞を受賞した。アカデミー賞でも主演男優賞をはじめ7部門でノミネートされ、アカデミー衣装デザイン賞を獲得。授賞式ではデザイナーのリジー・ガーディナーがアメリカン・エキスプレスのゴールド・カード(全部自分の名前入り)を繋げたドレスを来て登場した。ちなみにリジーは興行先のホテルでミッチを案内するメイド役、監督のステファン・エリオットはドアマンとして登場している。
 主演の3人は、イギリスの名優テレンス・スタンプ、「マトリックス」のエージェント・スミスで有名なヒューゴ・ウィーヴィング、「メメント」や「LAコンフィデンシャル」で知られるガイ・ピアースが共演。ガイ・ピアースはこれが映画デビュー作である。
 ある日、シドニーに住むミッチ(ヒューゴ・ウィービング)のもとに電話がかかって来る。ミッチには昔別れた妻が居て、彼女がオーストラリア中部にあるアリススプリングスという町のリゾートホテルでのショーをミッチに依頼してきたのだった。ミッチは、恋人をなくしたばかりで落ち込んでいたバーナデット(テレンス・スタンプ)と、若くて底抜けに明るいフェリシア(ガイ・ピアース)を誘い〝プリシラ号〟と名付けたバスに乗って3000キロの旅へと出発する。
 時には口喧嘩をしながらも、バスは順調に進んでいく。しかし、オーストラリアの荒野は果てしなく、ついにバスがエンスト。3人は立ち往生してしまう。立ち寄った田舎町では差別や偏見の目に晒されるが、知り合った元ヒッピーの修理屋ボブ(ビル・ハンター)も加わって目的地に到着する。ミッチは元妻のマリオン、そして息子ベンジーと再会を果たす。今は女性である自分と父親である自分とのギャップに苦悩し、息子にどう思われているのか不安だったミッチだが、ベンジーはドラァグ・クイーンとしての父親を受け容れていた。アリススプリングスでの4週間のショーは終わり、一行がシドニーへ帰る日が来る。しかし、ボブと恋に落ちていたバーナデッドはそのまま残ることに。都会に戻ったミッチとフェリシアのステージは満席だ。そして、客席にはそんなミッチを嬉しそうに見つめるベンジーの姿があった。
 本作の見所はなんといっても衣装とメイク、そしてショーに尽きるだろう。奇抜な原色のドレスを着て70年代、80年代のディスコナンバーを中心にパフォーマンスを披露するシーンは何度観ても素晴らしい。出演している3人は完全にドラァグ・クイーンになりきっていて、泣き方やちょっとした仕草まで完璧にオネエ。これは相当研究したんだろうな、まさに役者根性!と感心してしまう。当時はヒューゴ・ウィーヴィングもガイ・ピアースもまだまだ知名度が低かったらしいが、今観ると豪華すぎる配役だ。中でも、テレンス・スタンプの立ち振る舞いのエレガントさ、毅然とした表情、何げない仕草まで女性そのもので、見事としか言いようがない。テレンス・スタンプは、この役のオファーが来た時、今までに無い役柄だったので(そりゃそうでしょう)かなり悩んだとか。元ボディービルダーだったガイ・ピアースがキレのあるダンスを披露している横で、テレンス・スタンプがワンテンポ遅れて踊るという細かい演出にも感心。こういう役すら違和感なく演じられる役者さんを本当の名優というのだろう。
 オーストラリアの真っ赤な大地と真っ青な空の間に、ギラギラのドレスをまとったドラァグ・クイーンという対比も不思議なシュールさがあり、自然の美しさの中に溶け込めない3人の姿が彼女達の孤独感を際立たせている。年齢も人生経験も生き方も異なる3人は悩みも違うが、共通しているのはゲイである自分を恥ずかしいと思っていないことだ。どんなに白い目で見られても誇りを捨てず、不器用だけど前向きに生きる彼女達は繊細で大胆で下品。私達は外道で上等よ、というパワーに満ちあふれている。しかし、彼女達は社会的にはマイノリティーで特殊な存在。都会は住みにくいと思い、田舎に来てみたけれど都会以上に偏見と差別の混じった好奇の目に晒され、酷い言葉を投げかけられる。「普段は都会が嫌だなんて言ってるけど、都会という壁がああいう奴らから私達を守ってくれてるのよ。私達には都会しかないのよ。」というバーナードの言葉には、彼女が今までの人生から学んだ重い現実が滲み出ている。
 3人のドラァグ・クイーン姿があまりにも強烈なので、つい彼女たちばかり意識してしまうが、この作品はロードムービーとしても非常に良く出来ている。旅の中でぶつかり合いながらお互いと向き合い、自分と向き合い、そして愛する人を見つける。そんな彼女達を見ていると元気が出てくる。自分を偽る必要なんてない。ありのままの自分で接すれば、気持ちは伝わるんだ。世間は分かってくれなくても、大切な人と気持ちが繋がってさえいれば大丈夫!そんな気持ちになれる素敵な作品だ。

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