映画:忘れられない一瞬がある

「シャロウ・グレイブ」
SHALLOW GRAVE


ハイセンスでスタイリッシュなサスペンス





監督は1996年、「トレインスポッティング」で一躍世界的に注目され「スラムドッグ$ミリオネア」でアカデミー監督賞を始め多数の映画賞を受賞しているダニー・ボイル。本作はそんなイギリス屈指の監督が、初めて劇場版映画として製作した記念すべき作品である。脚本は「トレインスポッティング」でも脚本を担当しているジョン・ホッジ。彼にとってもこの作品がデビュー作となる。ちなみにジョン・ホッジは怪しい様子の見習い刑事役で出演もしている。ダニー・ボイルはスピード感のある映像、アングルの異なる複数のカットを大胆に切り替える手法、映像のリズム感などに特徴のある監督だが、本作からもそのこだわりが随所に見て取れる。
 冒頭、真っ赤な画面とクローズアップされた青年の顔、そして意味深な独白で物語が始まる。主人公は、新聞記者のアレックス(ユアン・マクレガー)、会計士のデヴィッド(クリストファー・エクルストン)、医者のジュリエット(ケリー・フォックス)の3人。彼らは瀟洒なフラットで共同生活をしている。3人に共通しているのはシニカルで享楽的な性格だ。3人は4人目のルームメイトを募集するが、なかなか条件に合いそうな人物が見つからない。面接をしては相手を馬鹿にし、そのたびに笑い転げる傲慢な3人。そんなある日、ジュリエットが面接に来た自称作家のヒューゴを気に入り、デヴィッドとアレックスも彼を承諾。ところがヒューゴは入居した翌朝、急性薬物中毒で死んでしまう。すぐ警察に通報しようとしたが、ヒューゴのスーツケースの中に大金を発見し、アレックスとジュリエットは通報しないと言い始める。真面目なデヴィッドは反対するが、押し切られるようにして渋々承諾。身元がばれないように遺体をバラバラにしようという話になり、くじ引きでデヴィッドが死体の始末をすることになる。それ以降デヴィッドの精神は次第に壊れ始め、3人の共同生活も不穏な空気に包まれていく。金の入ったトランクを持って屋根裏に籠もり、ドリルで床に穴を空けて階下の様子を窺うデヴィッド。おとなしかったデヴィッドが不気味な存在へと変貌し、3人の関係も微妙に変化していく。さらに、死んだヒューゴを探す麻薬組織の男2人がやってきてアレックスとジュリエットを襲い、デヴィッドが男たちを殺してしまう。またしても死体の始末をすることになる3人。そんな中、ジュリエットは密かに南米行きの切符を手に入れ、狂気が増してくるデヴィッドの恋人になった。アレックスは、新聞社で森で発見された死体の取材を命じられる。彼らの埋めた死体が発見されたのだ。しかし、怯えるアレックスは死体現場から逃げ帰ってしまう。そんな彼を不審に思い、刑事がアパートを訪れる。徐々に追い詰められていく3人…金を隠したデヴィッド、南米に高飛びしようとしたジュリエット、そしてアレックス、果たして最後に笑うのは誰なのか…?
 この作品の見所は、アレックスとジュリエットに軽く扱われていたデヴィッドが屋根裏に籠もったあたりから3人のパワーバランスが変容し、大金をせしめようとする3人の駆け引きが最後は殺意にまで高まってゆくハラハラドキドキ感だ。その先も二転三転、中盤から終盤にかけて、危機的な状況へと追い詰められ緊張感が高まっていく。タイトルの「Shall ow Grave」は 浅い墓穴 という意味だが、この言葉は主人公たちが死体を埋めた穴が浅かったという意味だけでなく、彼らの友情の浅さ、人間的な浅はかさも象徴しているのだろう。大金が人生を狂わせるという設定はありがちだが、本作では青春・友情というテーマも描きつつ、ところどころに暴力や血が唐突に紛れ込んで来るので驚かされる。1時間半という短い時間の中で気の抜けないストーリーが展開し、最後まで飽きさせない。音楽の使い方もいかにもダニー・ボイルである。また、死体が転がる部屋で死体の視点から3人を見上げるローアングルショット、3人の心理的駆け引きと麻薬組織の追っ手を平行して映すことで緊張感を高める手法、覗き・覗かれるという関係を屋根裏という閉鎖空間で表現し不安を煽る演出など、これが映画デビュー作とは思えない上手さだ。冒頭で独白しているデヴィッドが、ラストで実は…という演出もさすがである。  主演している3人は当時まだまだ若手だが、確かな演技力でそれぞれの個性を見事に演じている。ジュリエット役のケリー・フォックスは、したたかで怖い女を好演。クリストファー・エクルストンが演じたデヴィッドの、内向的でまじめな会計士が次第に異常な精神状態に陥っていく様にも凄味があり、いかにもハマり役。そして、アレックス役のユアン・マクレガー。当時まだ24歳だったそうで、生意気なワルガキという感じが初々しく、珍しいロン毛姿もなかなか可愛い。ユアン・マクレガー好きなら必見の作品でもある。
 本作を観終わった後、お金によって簡単に崩れてしまう友情なんて、もともと脆いものでしかなかったんだろうという思いと、もし自分が彼らのような立場に立たされたら、果たして正しい判断が出来るだろうか…という思いが交錯し、少し考えさせられてしまう。人間の欲望、貪欲さ、狡さを描き、中途半端に 善 を持ち出さないところも潔くて個人的に好きである。誰か1人が正義という物語ではないので、誰にも肩入れせず傍観出来るのも良い。脚本・演出・出演者と見事に三拍子が揃った見応えのある佳作である。

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