映画:忘れられない一瞬がある

「ショーン・オブ・ザ・デッド」
Shaun of the Dead


ゾンビ愛がひしひしと伝わってくるコメディ映画





 ジョージ・A・ロメロの金字塔「ゾンビ」を正当に継承しつつ、パロディ化した作品。熱狂的なロメロ・ゾンビファンであるエドガー・ライトとサイモン・ペッグが共同で脚本を書き、エドガーが監督、サイモンが主演している。ゾンビへの愛情とロメロへの尊敬に満ちた作品であり、映画としてのクオリティも高い。ロメロ本人も大絶賛したという作品なのに、なぜか日本では劇場未公開である。ちなみに、エドガー・ライトとサイモン・ペッグはこの作品が縁でロメロ監督のゾンビ映画「ランド・オブ・ザ・デッド」に、鎖に繋がれたゾンビ役でカメオ出演している。
 ロンドンの家電量販店で働く青年ショーン(サイモン・ペッグ)は、人生の目標や目的を持たないまま、親友のエド(ニック・フロスト)とパブに入り浸る自堕落な毎日を送っていた。そんな彼に長年の恋人リズもついに愛想を尽かしてしまう。このままではいけないと反省したショーンは、リズとヨリを戻すため、これまでのだらしない生活を改めようと決意する。しかし、ショーンが恋人のことで頭がいっぱいになっている間に、街にはゾンビが溢れ、生きた人間を次々と襲っていたのだった。この事態にやっと気づいたショーンは、エドと共に母親とリズの救出に向かう。しかし、結局全員で避難した先はまたしてもパブ。ゾンビとの激しい攻防の中、母親もエドも噛まれてしまい、ゾンビ化することは時間の問題となってしまう。はたして彼らを待ち受ける結末は…。
 「ショーン・オブ・ザ・デッド」を単なるゾンビもののコメディとして語るのは非常にもったいない。 本作で傑出しているのは、日常生活が徐々にゾンビに侵されていく中で、ショーンとエドが取るリアクションのリアルさだ。ゾンビをホームレスや酔っ払いと間違えるのもよく分かる。いつもと同じように街を歩いていて、フラフラしている人を見かけても、普通「ゾンビだ!」なんて思わないだろう。本作の登場人物はダメ人間ばかりで、ヒーローも屈強な軍人も聡明な科学者も登場しない。でもよく考えてみると、それが普通なのだ。そんなフツーのダメ人間たちが知恵を絞ってゾンビに対抗する姿にも親しみを感じる。イギリスが舞台なので銃がほとんど出てこないのも親近感を感じる1つの要素だろう。その辺にある台所用品や、ゴルフクラブ、クリケットのラケット(この辺はイギリスらしい)で応戦。やっと手に入れた銃もうまく扱えず、あまり役に立たなかったりするのも説得力がある。ある日唐突に絶望的状況に放り込まれたフツーの人間が取ってしまう行動って、多分こんな風に滑稽なんだろうなぁ、と身につまされる感覚は秀逸だ。ゾンビ好きな私が常々妄想していた ゾンビの群れにゾンビのふりをして紛れるとどうなるか? という疑問を実践している貴重な作品でもある。
 そして何より、ロメロが生んだ伝統的なゾンビスタイルをしっかりと継承しているのがいい。やっぱりゾンビはノロノロ歩くべきだし、1体ずつなら倒せそうだけど、数が増えて囲まれると絶望的な状況に陥るという恐怖がいいのだ。ゾンビ好きには思わずニヤリとしてしまう小ネタを散りばめつつ、愛する人との別れ、極限状況での人間ドラマなど、押さえるところはしっかり押さえて、しかも笑いも取っている。ショーンとエドがTVで放送している「ドアはきちんとしめてバリケードを築こう」というゾンビ対処法を食い入るように見ている、その奥のドアが開けっ放しでゾンビが入ってきたり、ゾンビを倒すためにコレクションのレコードを武器として投げつけているのに「これ、お気に入りだから使っちゃだめ」と緊張感ゼロのやり取りをしたり。そんな登場人物たちのユルさとブラックジョーク、独特の間、テンポの良い展開にぐいぐい引き込まれてしまうのだ。この作品で、主人公たちはゾンビとの死闘の末、大切な人を失い、同時に何か大切なものを得る…かのように描かれている。しかし、実際に彼らが行き着いた生活はゾンビが現れる前と大差ない、というラストには(そういうオチもあったのか!)と驚かされる。
 ゾンビ映画は気持ち悪くて苦手だという人もいるだろうが、ゾンビ映画というのは 恐怖 人間の本性 友情 家族愛 ラブストーリー 人種問題 など、あらゆるエッセンスを取り入れることが出来る、いわば映画の玉手箱のようなジャンルだと私は思っている。しかも切り口次第で感動的な話にもコメディにもなる。そして、基本的に監督をはじめ、特殊メイクやエキストラなどのスタッフ陣もゾンビ好きが多いので「いかに無残な死にざまを演じるか」とか「いかにショッキングな人体破壊シーンを撮るか」ということに血道を上げているオタクたちなのだ。だから、残酷なシーンほど(あぁ、みんな張り切ってるなぁ)と優しい眼差しを注いであげればいいのである。
 「ショーン・オブ・ザ・デッド」は作り手たちが自分の好きな要素をたっぷり詰め込み、それを素晴らしい構成力でまとめた秀作である。同監督、キャストで制作した次作にあたる刑事ものの「ホット・ファズ」も評価は高く、本作より「ホット・ファズ」派という人も多い。先日「ショーン・オブ・ザ・デッド」、「ホット・ファズ」に続く3部作完結編「ザ・ワールズ・エンド(原題)/ The World’s End」の予告編が公開され、話題になっていたのも記憶に新しい。エドガー・ライト監督、サイモン・ペッグ、ニック・フロストの3人が再びタッグを組んだこの新作、今度こそ日本でも劇場公開される事を期待したい。

映画トップ