映画:忘れられない一瞬がある

「シン・シティ」
Sin City


ハードボイルドな男達の愛の物語





 アメコミの巨匠フランク・ミラーの原作を、フランク・ミラーとロバート・ロドリゲスが共同で監督した作品。相互に関連した3つの話がオムニバス形式で語られている。ロドリゲスと仲の良いクエンティン・タランティーノが特別監督としてワンシーンのみ演出しているのだが、「キル・ビルVOL.2」でロドリゲスが1ドルで曲を提供してくれたお礼という事で、タランティーノもギャラ1ドルで演出を引き受けたとか。ちなみに原作者のフランク・ミラーも教会の司祭役でカメオ出演している。
 物語の舞台は犯罪以外は何もない〝罪の街=シン・シティ〟。憎しみと裏切り、暴力が支配する街で愛に目覚めた男たちが大切な女のために巨悪に挑む、という単純明快なストーリーである。 「THE HARD GOODBYE」  
 その外見からモンスターと恐れられているが、本当は心の優しい男マーヴ(ミッキー・ローク)は、ある夜ゴールディという高級娼婦と出会う。しかし、ゴールディは何者かに殺害され、マーヴが犯人に仕立て上げられてしまう。マーヴは真犯人を探し出してゴールディの敵を取ることを決意。そして、猟奇殺人犯であるケビン(イライジャ・ウッド)との戦い、ゴールディの双子の姉であるウェンディと出会ううち、一連の事件の首謀者が国を裏から牛耳るロアーク卿であることを突き止める。 「THE BIG FAT KILL」
 恋人シェリー(ブリタニー・マーフィ)にまとわりつくジャッキー・ボーイ(ベニチオ・デル・トロ)の後を尾けていたドワイト(クライヴ・オーウェン)は、娼婦たちが取り仕切るオールド・タウンへたどり着く。そこは彼女たちが警官に金と楽しみを与える代わりに自治権を認められている街だった。ジャッキー・ボーイが娼婦の一人を無理やり連れて行こうと銃を出したため、街を警備するミホ(デヴォン青木)によって殺害されてしまう。ところが、ジャッキー・ボーイの正体は刑事だったのだ。警官を殺せば協定は破棄され、街は再び無法地帯と化してしまう。オールド・タウンを仕切る昔の恋人ゲイル(ロザリオ・ドーソン)たちと証拠隠滅を図ろうとするドワイト。果たしてドワイトは女たちを守ることができるのか。
「THAT YELLOW BASTARD」
 心臓に持病を持つ刑事ハーティガン(ブルース・ウィリス)は、連続幼女殺人犯であるロアーク・ジュニアを追い詰めて重症を負わせ、少女ナンシーを助けることに成功する。しかし、相棒に裏切られ重症を負った上、連続幼女殺人の罪を着せられ、投獄されてしまう。8年間、罪を認めなかったハーティガンだが、再びナンシー(ジェシカ・アルバ)の身に危険が迫っていると知らされ、罪を認めて出所する。ナンシーを探し出すハーティガン。しかし、それこそが罠だったのだ。連続幼女殺人事件の真犯人ロアーク・ジュニア〝イエローバスタード〟が、治療の副作用により醜く変貌した姿で彼らを執拗に狙う… 。
 フランク・ミラーの世界観にこだわり、原作をそのまま忠実に再現した本作は、全編アメコミ独特の黒を基調とした映像で描かれている。機械的な処理を重ねて役者の人間臭さを極力抑えた画面は、光が当たっているのに黒く塗りつぶされたり、極端に白く描かれたりしている。血やブルーの瞳、深紅の口紅などインパクトのあるパーツにだけ色を付けるアイディアや、スタイリッシュな映像もお見事の一言だ。確かにこういう色彩にしないと、あまりにもショッキングで刺激が強すぎることも事実であるが、今までになかった独創的な手法で完成された映像世界は素晴らしい。
 そして、とにかく出演者が豪華!!特に印象に残るのは食人殺人鬼、イライジャ・ウッドとデヴォン青木演じる殺人兵器ミホだろう。イライジャ・ウッドの「ロード・オブ・ザ・リング」での純朴な印象をドブに捨てる演技には驚愕させられるし、無表情殺人兵器ミホが日本刀、手裏剣を駆使して悪党をぶった斬るカッコよさにも感動。余談になるが、ミホが使っている二刀流の刀は「キル・ビル」の服部半蔵の刀で、これもタランティーノが快く貸してくれたものだとか。ロアーク枢機卿役でルトガー・ハウアーが出演しているのも嬉しいし、ジョシュ・ハートネットがクールな強盗役で登場するプロローグとエピローグも印象的だ。
 タランティーノが演出したシーンは、ドワイトがジャッキー・ボーイの死体を車に乗せて捨てに行くシーンなのだが、緊張感から死んでいる(額から銃身が飛び出している)ジャッキー・ボーイが喋っているように錯覚する、というシーン。車が揺れるたびに皮一枚でつながってる首がパックリ開いたりするシーンなど、タランティーノが嬉々として演出している様子が浮かんでくる。
 映画ファンの間では「この作品はマンガだ」という批判もあるようだが、これは敢えてマンガ的に作られた作品なのである。分かりやすいストーリーと完成された人物造形があるから荒唐無稽な展開も気にならないし、全てのカットが非常に考え抜かれているのが伝わって来る。この作品は、製作陣をはじめスタッフ、俳優たちが原作に対して敬意を抱き、忠実であろうとすることで〝映画にしてアメコミ〟という独創的な世界観を実現させているのだ。
 公開延期に次ぐ延期でファンをやきもきさせていた続編の「シン・シティ ア・デイム・トゥ・キル・フォー」が8月22日にアメリカで公開されるという嬉しいニュースも最近発表され、日本公開を待ちわびているファンも多いのではないだろうか。もし本作がツボにはまった方は、ぜひ続編も楽しんでいただきたい。

映画トップ