映画:忘れられない一瞬がある

「素晴らしき哉、人生!」
It's A Wonderful Life


素直に感動できる古典的名作




 監督のフランク・キャプラはアカデミー監督賞を3度受賞している名匠。
この「素晴らしき哉、人生!」は、キャプラが友人と設立した製作会社リバティ・フィルムズの第1作目だが、公開当時の興行成績は悪く、リバティ・ピクチャーズはこの後もう1本作品を製作しただけで解散。この作品はパブリック・ドメイン(著作権が消滅して、誰からの承諾も得ずに自由に使用できる状態)となった70年代以降、毎年のようにテレビ放映され、年を経るごとに評価が高まった。スピルバーグや黒澤明も好きだと公言しており、アメリカ映画協会が選ぶ『感動の映画ベスト100』では1位に選ばれている。
物語は1人の男性が自殺しようと橋の上に立っている所から始まる。あちこちの家から「ジョージを助けて」「ジョージが大変」という声が聞こえる。そこでカメラが銀河の彼方まで引くと、惑星のようなものが話し合っている。どうやら神様の会話らしい。そして、ジョージを助けるために2級天使クラレンス(ヘンリー・トラヴァース)を地球につかわすことを決める。クラレンスは、200年間翼をもらえない落ちこぼれ天使で、この件を成功させたら翼がもらえるという。そのために、まずはジョージ(ジェームズ・スチュアート)という人物の予備知識を、ということで、彼の少年時代から現在までが順を追って再生される。
アメリカの田舎町に生まれたジョージは、大人になったら故郷を飛び出し、世界を周りたいという夢を持っていた。ジョージの父は住宅金融会社を経営し、町の貧しい人々に低金利で住宅を提供していたが、町のボスで銀行家のポッター(ライオネル・バリモア)は彼を目の敵にしていた。
子供の時、氷の張った池に落ちた弟・ハリーを助けるため自分も池に入って片方の聴力を失い、カレッジを卒業し、待ちに待った世界旅行に出発しようとした時には父親が過労のため世を去った。株主会議で社長に推されたジョージは、それを承諾しない訳にはいかなかった。大学をハリーに譲ったジョージは、ハリーが大学を卒業したら社長を交代し、自分も大学へ行くつもだった。しかし、ハリーは社長令嬢と結婚し将来の地位も約束されて帰ってくる。
やがて、ジョージは幼馴染みのメアリー(ドナ・リード)と結婚する。新婚旅行に出発しようとしたその日、世界経済恐慌が襲い、それを切り抜けるために旅費を預金者の払い戻しに使ってしまう。こうした思いがけない出来事に翻弄されながらも、ジョージとメアリーは幸せな生活を送り、4人の子供にも恵まれた。しかし、またしても不幸がジョージを襲う。叔父のビリーが会社の資金8000ドルを紛失してしまったのだ。絶望したジョージは橋の上から身を投げようとする。
 ここで回想が現実に追いつく。
ジョージの目の前で、空から降ってきたクラレンスが河に身投げした。河に飛び込み、クラレンスを救ったジョージに、「自分は天国からやってきた2級天使で297年間翼が無い。君を救うと翼がもらえる」と告げる。その話を信じることが出来ないジョージが、「この世に生まれなければ良かった」と洩らすと、クラレンスはジョージが生まれなかった世界を彼に見せる。そこはポッターによって完全に支配され、弟は死に、友人達は荒れ果て、人情も道徳もない殺伐とした世界だった。彼が生まれなかった世界では多くの人々が不幸に陥っていたのだ。ジョージはたまらなくなって元の世界へ戻してくれと叫ぶ。
そして最後は素晴らしい奇跡が起きる。天使のクラレンスが魔法で起こした奇跡ではない、ジョージ自身が起こした奇跡─。
ジョージは自分の夢を何度も諦めてきた。しかし、他の人の夢をたくさん叶えてあげていたのだ。彼を救ったのはジョージ自身であり、ジョージの選択してきた行動の結果なのだ。
前半の長いと思える回想シーンに登場していた人々が一斉に集い、全ての伏線が一気に回収される。人の善意というものを畳み掛けるように見せていくラストは大感動だ。
神様たちの会話や、ジョージの幼少期から青年期へと変わる瞬間のストップ画面などの演出も非常に面白い。それぞれの関係の描写も分かりやすく、混乱することがない。
天使のクラレンスも良い味を出している。きっとこの天使がこの風貌でなかったら物語の面白さも半減したことだろう。また、ジョージ役のジェームズ・スチュアートと、その妻役のドナ・リード。この2人の演技は、これが地なのではと思わせるほど上手い。
ちなみにポッターを演じたライオネル・バリモアは、ドリュー・バリモアの大伯父である。
 人生は辛く、理不尽なことの方が多いかもしれない。年を重ねると、己が得てきたものや失ってしまったものも良く分かる。もちろん後悔だってたくさんある。
しかし、心の持ちようで人生は不幸にも幸福にもなるのだ。誰もがいろんな人と関わり合って生きていて、必要のない人なんて誰もいない。そんな当たり前のことを再認識させられる本作は、あまりにもベタで気恥ずかしくなるかもしれない。
しかし、幸せというものは自分のやりたいことを叶えることでしか得られないのではなく、周りの人たちとの関係の中に見出すことも出来る。それは決してお金では買えないものなのだ。そんなポジティブなメッセージが伝わってきて、改めて“今自分がここにいること”に感謝することができる名作である。


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