映画:忘れられない一瞬がある

「テイク・ディス・ワルツ」
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ハッピーエンドの先にあるリアル




 カナダの女優であり脚本家・映画監督でもあるサラ・ポーリーは、4歳から子役として活躍し、9歳で出演した「バロン」(テリー・ギリアム監督)の少女サリー役で注目を集めた。ハリウッド嫌いを公言する彼女は、ヴィム・ヴェンダース監督作品などで演技派女優として活躍する一方、「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」で念願の長編監督デビューを果たし、高い評価を受けている。本作は、そんな彼女が長年自問自答してきたという〝男女の間に永遠の愛は存在しうるのか?〟というテーマを女性らしい視点から描き出した長編第2作目である。
 カナダのトロントに住む28歳のフリーライター、マーゴ(ミシェル・ウィリアムズ)はルー(セス・ローゲン)という優しい夫と穏やかな生活を送っている。ルーはチキン専門の料理本を書くためいつも家でチキン料理を作っている。結婚5年目、子どものいない2人は互いに悪態をついてじゃれ合い、夫婦というより兄弟のような関係。しかし、2人の間には親密な会話がなく、マーゴが真面目に話をしようとしても、ルーはすぐに話をそらしてしまう。マーゴは善良な夫を愛しているが、結婚生活に満たされない思いを抱いている。
 そんなある日、マーゴは取材で訪れた旅行先でダニエル(ルーク・カービー)という青年と出会う。会話を交わすうち、お互い惹かれあう2人。空港からタクシーをシェアして帰ると、自宅が斜め向かいだと分かる。マーゴはダニエルに「夫がいるの」と打ち明けるが、2人の間には恋が芽生えてしまっていた。マーゴは通りの向こうにダニエルの姿を探すようになり、デートを重ねる。それでもマーゴは最後の一線を越えることができない。惹かれ合いながらも距離を保とうと諦めた矢先、ダニエルがハガキを1枚残し、突然引越してしまう。激しく動揺するマーゴの様子を見て、ルーも彼女の異変に気づく。全てを打ち明けるマーゴに対して、ルーは驚きと怒りを感じながらも彼女の選択に任せる。結局、マーゴはルーと別れダニエルと暮らすことを選ぶ。しかし、情熱的だった2人の恋愛も、それが現実になってしまうと倦怠が生まれてくる。そんな時、ルーから「姉のジェラルディン(サラ・シルバーマン)が失踪して、その娘のトニーが会いたがっている」という電話がかかってくる。久しぶりにルーの家族たちと再会するマーゴ。レシピ本がヒットして売れっ子になっているルーは、以前と変わらない優しい態度でマーゴに接する。ルーと姪っ子に会って再び心が揺らぐマーゴ。しかし、ルーは「もう終わったこと」と言い、優しくマーゴを見送る。マーゴは自分が選択した人生へと戻っていくのだった…。
 〝幸せに鈍感なんじゃない。寂しさに敏感なだけ。〟というキャッチコピーで多くの女性の共感を呼んだ本作。ストーリーは典型的なメロドラマだが、一見仲の良い夫婦の間に生まれる倦怠感、リアルな男女のすれ違い、女性特有の複雑な感情をサラ・ポーリーが静かに描き出している。こういうタイプの作品は、いかに説得力を持たせるかが鍵になると思うのだが、女性なら誰でも感じたことがあるジレンマや、ひとつひとつのエピソードを細やかに描き出しているので、非常に身近に感じられる。
 〝釣った魚に餌はやらない〟という言葉もあるように、恋愛中は相手を理解しようと努力するのに、結婚するとまったく努力しなくなる男性は多い。ルーもそういうタイプで、一緒に生活して「愛している」と言っていれば夫婦円満だと思っている。結婚記念日にレストランに出かけても黙々と料理を食べるだけ。マーゴが「何か話して」と言っても「君とぼくは一緒に暮らしているんだから、お互い知らないことなんか無い」と言ってしまう。これはルーにとって愛情表現かもしれないが、マーゴは失望しか感じない。世の中の夫婦(恋人)関係も、これと似たようなことが重なって次第に溝が生まれてしまうのだろう。ルーとマーゴが抱えている問題は、ほとんどのカップルに共通しているように思える。
 しかし、マーゴのように満たされない心を埋めるためにパートナーを変えても、結局行きつく先は同じなのだ。アルコール依存症の義姉が「人生なんかどこか物足りなくて当たり前なのよ。それに抵抗するなんてあんたバカよ」とマーゴに言うシーンがあるのだが、このセリフが全てを言い表しているのだろう。それを悟っている義姉がアルコール依存症だというのがまた悲しいのだが…。終盤、レナード・コーエンが歌う「テイク・ディス・ワルツ」にのせてカメラが回る演出は、満足できる相手が見つけられないまま永遠にワルツを踊っている主人公の目線のようにも思える。そして、物語はハッピーエンドでもバッドエンドでもなく唐突に終わる。ビターな〝To be continued〟はリアルな人生そのものだ。
 主演は「ブルーバレンタイン」でアカデミー主演女優賞にノミネートされ、「マリリン7日間の恋」でゴールデングローブ主演女優賞を受賞したミシェル・ウィリアムズ。日常に閉塞感を感じているマーゴの心のゆらぎを表情だけで見事に演じている。また、大人可愛いファッションやカラフルなインテリア、キュートな小物も見ていて楽しいので要チェック。
 魅力的な新しいものもいつかは色あせる。しかし、ひとつのものを大切にし続けることで生まれる感情もある。問題は周囲ではなく自分の内面にあるのだ。そのことに気づかない限り無い物ねだりの連鎖から抜け出すことは出来ない。満たされた人生って、結婚って何だろう…と考えさせられる辛口ドラマである。

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