映画:忘れられない一瞬がある
「タワーリング・インフェルノ」
The Towering Inferno


娯楽性とメッセージ性が調和したパニック映画の名作





「タワーリング・インフェルノ」は、英語で「そびえ立つ地獄」という意味である。この作品は、ワーナー・ブラザーズと20世紀フォックスが映画史上初めて共同で製作・提供したパニック映画である。もともと各社が「ザ・タワー」、「ガラスの地獄」という原作の映画化を企画していたのだが、高額な製作費の問題もあり、似たような映画を作るよりも2社が協力してよりスケールの大きな映画を1本作ったほうがいいのではないか、という話になり1400万ドル(約38億円)という巨額の製作費をつぎ込んで誕生した。そして、主にワーナー映画に出演していたスティーブ・マックイーンと、主に20世紀フォックス映画に出演していたポール・ニューマンという当時のハリウッドを代表する2大スターの競演も実現したのである。  パニック映画といえば「大空港」、「ポセイドン・アドベンチャー」「エアポート'75」などが有名だが、「タワーリング・インフェルノ」はそうした作品群の中でも名作と呼ぶのにふさわしい作品だろう。本作は、アメリカ国内だけで1億1600万ドル(約314億円)を稼ぎ出してその年の興行収入第1位を記録し、アカデミー賞撮影賞など3部門に輝いた。  製作は本作の2年前に「ポセイドン・アドベンチャー」に携わったスタッフが多く、その際の特撮技術を応用したというエピソードも有名。セットは20世紀フォックスのサウンド・ステージや、サンフランシスコ市内の数ヵ所に全部で57も作られ、グラス・タワーの模型は高さ33メートルもあった。もちろん、当時はCGなどがないので本物の火を使っての撮影である。ラストの放水シーンでは4千キロリットルもの水が一気に使われたので、セットも5メートルの鉄鋼で支柱を組み、その上に組み立てられた。撮影終了後、火攻め、水攻めを免れたセットは8つしかなかったそうだ。  本作の舞台はサンフランシスコ。世界一高い138階建てのビル「グラス・タワー」が完成し、その落成パーティが135階の会場で300名の来賓を招いて華やかに始まった。しかしその真っ只中、オーナーの娘婿ロジャー(リチャード・チェンバレン)が予算を着服するために行った電気系統の手抜き工事が原因となり、81階の備品室でボヤ火災が発生する。  設計者のロバーツ(ポール・ニューマン)はオーナーのダンカン(ウィリアム・ホールデン)に落成式を直ちに中止するよう進言するが、ダンカンは耳を貸さない。事態を重く見た消防隊のオハラハン隊長(スティーブ・マックイーン)は決死の救出作戦に出るのだが、パーティの出席者が避難を始めた時にはすでに遅く、高速エレベーターに我先に乗り込んだ人々は焼死してしまう。電気系統も故障して停電になり、エレベーターは使えなくなってしまう。消防隊の中からも死者が出始める。  ひたすら消火と救助活動に励むオハラハン隊長や、責任を痛感し消防隊に協力するロバーツ。対照的に保身しか頭に無い自己中心的な男も配置し、極限状況での人間心理を良くも悪くも繊細に表現している。  また、破壊された非常階段からの脱出や、エレベーター・シャフト内でのロープ降下、吊り篭を使った隣のビルへの脱出(高所恐怖症の方は要注意)、停止した展望エレベーターをヘリで吊り上げて救出するシーン、ビルの屋上にある巨大な貯水槽を爆破させるラストと、160分という長さを感じさせない手に汗握るアクションの数々が展開される。  また、出番は少ないが圧倒的な存在感が際立ったスティーブ・マックイーンや、ポール・ニューマンの頼れる男ぶりと華麗なアクション、それに加えてフェイ・ダナウェイ、大御所のウィリアム・ホールデン、フレッド・アステア、50年代を代表する名女優ジェニファー・ジョーンズ、テレビ界のトップ・スターだったリチャード・チェンバレンにロバート・ヴォーン、更にO・J・シンプソンという豪華な俳優たちの競演も見所。  彼らがそれぞれ主人公となり、個々のドラマを展開していく。あえなく死んでいく者、醜態をさらけ出す者、嘆き悲しむ者…。パニック映画としてもさることながら、この顔ぶれが繰り広げる数々の物語も作品に味わいと深みをもたらしている。  「タワーリング・インフェルノ」の火災は、手抜き工事、火災発生後の対応の遅さ、火災が起こった場合を全く想定していなかったこと、これらの要因が重なって大惨事を引き起こした典型的な人災である。そして、同じような惨事が日本でも現実に起こっているという事実が何よりも恐ろしい。この作品は、もはや架空のストーリーではないのだ。マックイーンのセリフ「確実に消火できるのは7階までだ。それなのに設計屋は高さを競いたがる。」「ラッキーだよ。死者は200人以下だろう。今にこんなビルで1万人が死亡する。」…この言葉はまさに未来を言い当てていたと言える。  技術が進歩し、最新の設備を備えて完璧を期したつもりでいても、人の驕りは必ず破綻をもたらす。己を過信した後に待っているのは破滅だ。今の私たちに必要とされていることが本作には詰まっている気がしてならない。そうしたメッセージが込められているという意味でも、パニック映画という枠を超えた不滅の名作である。
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