映画:忘れられない一瞬がある
「天国から来たチャンピオン」
Heaven Can Wait


爽やかでハートフルな恋愛コメディ映画





 今となっては定番物とも言える 一度死んだ人間がゴーストとなって蘇り、他人の肉体を借りて活躍する という設定の先駆的な作品。本作は、「幽霊紐育(ニューヨーク)を歩く」(1946年公開)のリメイク作品で、オリジナルではプロボクサーが主役だったので、モハメド・アリ主演での制作を予定していたが、アリ側に断られたため設定をアメリカンフットボールに変更し、ウォーレン・ビーティが主演も兼ねて制作されたそうである。
 ウォーレン・ビーティ扮するジョーは、プロ・アメリカンフットボールの前途有望なクォーターバックだ。彼の夢はレギュラーを取ってスーパーボウルに出場すること。しかし、自転車でスタジアムに向かう途中、交通事故に巻き込まれ、死んでしまう。
 実はこれが彼を迎えに来た天使のミスで、あと50年は寿命があると判明する。天使は慌ててジョーを連れて地上に戻るが、ジョーの肉体は火葬にされて灰になっている。そこで、ジョーと天使は代わりの肉体を探し求めて世界中を飛び回り、大富豪ファーンズワース氏の元へと案内される。彼の妻は遺産を狙って夫を殺そうとしているのだ。再びクォーターバックをこなせる肉体が欲しいジョーは、ファーンズワースに満足せず離れようとする。しかし、ファーンズワースの強引な経営に対して抗議に来たベティ(ジュリー・クリスティ)に一目惚れしてしまう。そして、彼女の願いを叶えるため一時的にファーンズワースの肉体を借りる決意をする。庭の外れにある井戸に突き落としたはずの夫が元気に姿を現したので、ファーンズワース(ジョー)の妻は驚き、おののく。
 ジョーはさっそく重役会議を招集すると、事業のあり方を反省し、やり方を改善させる。事業をフットボールに例え「フェアプレーで行こう」と訴える。すっかり体育会系のノリに人格が変わってしまったファーンズワースに、周囲の人間は大いに混乱する。
 ベティもそれまで憎しみの対象でしかなかったファーンズワースに戸惑いながらも、恋愛感情を抱くようになる。
 ジョーは、かつて親友だったトレーナーを呼び寄せ、体を鍛え直す。自分が活躍したアメフトチームを買収し、自らクォーターバックを買って出る。当然、チームメイトたちは金持ちの道楽だと思い、練習試合でジョーを痛めつけるが、彼はめげずに見事なパスを繰り出して実力を認めさせる。恋もアメフトもあきらめないジョーは自らの力でチームの信頼を勝ち取ったのだ。
 しかし、総てが上手くいっていたその時、天使が再び現れ、その体はもうすぐ使えなくなると告げる。ファーンズワースの妻とその愛人が再び殺人計画を練っていて、彼はその銃弾に倒れる運命にあるのだ。
 「もし君が、次に恋をするとしたら、きっと彼はクォーターバックだ」そう言い残してベティと別れた後、豪邸に銃声が響く。刑事が関係者に聞き取り調査を行っている隣に、魂となったジョーと天使もいる。テレビではスーパーボウルを放送している。ところが、クォーターバックのジャレットがアクシデントで意識を失ってしまう。それを見ていた天使がジョーに目配せする。
 ジャレットの肉体に乗り移り、見事に逆転優勝を飾ったジョー。ところが、試合後にやってきた天使は「この選手の肉体を選んだのなら、これから君はこの選手として残りの人生を生きる事になる。ただし、君のこれまでの記憶はすべて失われる」と告げる。
 そして、記憶を失ったジョーがいるスタジアムに何かを感じ取ったベティがやって来る…。  この作品でユニークなのは、死者たちがコンコルドで天国へ向かうという発想だ。中継駅には送られる人たちが列を作って並んでいる。人はあらかじめ死ぬ日が決まっていて、天国本部に問い合わせると、ちゃんと確認できる。そして、登場する天使はネクタイを締め、スーツを着ている。天国がまるで会社組織のように描かれているところが面白い。
 古い作品なので技術に未熟さは感じるが、それを補って余りある魅力がある。いくつものセリフにちゃんと伏線があり、それが涙や笑いに昇華して行く演出、そしてウォーレン・ビーティの爽やかな存在感。この作品は、間違いなく彼の代表作の1つと言えるだろう。
 また、この作品に登場するキャスト全員が、それぞれ個性あるキャラクターで登場しているのも注目すべきところだ。天使役のジェームズ・メイスン、トレーナー役のジャック・ウォーデンをはじめ、人が変わってしまった事に困惑しつつも再び暗殺計画を進める妻のダイアン・キャノン、秘書のチャールズ・グローディンの演技も大いに笑える。
 ユーモアとペーソスを織り交ぜながら、上手く描かれたストーリー、そしてそれを包み込むようなデーブ・グルーシンの軽妙な音楽もいい。
 シリアスな運命論をテーマにした作品ではなく、全編にわたってコメディ的な要素を楽しみながらも、運命的な出会いを信じさせてくれる作品。人生にはムダな出来事や、意味のない出会いは無いのかもしれない。死んでしまっても、魂と魂は再び出会うことが出来るのかもしれない、という気持ちにさせてくれる。決して派手な大作ではないが、限りある人生をいかに生きるか、いくつもの出会いと別れの狭間で人を愛し、誠意を尽くす。そんな生き方の素晴らしさが伝わってくる。見終わった後に少しせつなくて、そして心が温かくなる名作である。

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