映画:忘れられない一瞬がある

「スティング」
The Sting



詐欺映画のお手本とも言える名作




 この作品を観たことがないという人も、タイトルとテーマ曲「ジ・エンターティナー」は、誰しも耳にしたことがあるだろう。不朽の名作として名高いこの作品は、第46回アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞、ミュージカル映画音楽賞、美術監督・装置賞、衣装デザイン賞、音響賞の7部門を受賞している。詐欺や策略により騙したり騙されたり、ゲームのようにストーリーが二転三転する映画のことをコン・ゲーム映画と言うが、本作のタイトル「Sting」も〝詐欺師が巧妙に相手を騙す〟という意味のスラングである。
 舞台は1936年のアメリカ。フッカー(ロバート・レッドフォード)とルーサー(ロバート・アール・ジョーンズ)は、小さな地方都市の片隅で稼ぐイカサマ師コンビ。ある日、2人は賭博組織の下っ端から大金を奪い取るが、その男は有力な黒幕・ロネガン(ロバート・ショウ)が牛耳る賭博シンジケートの運び屋で、上納金を運ぶ途中だった。ロネガンは組織の威信を守るため、殺し屋を使ってルーサーを殺す。詐欺の師匠にして育ての親代わりでもあるルーサーの復讐を誓ったフッカーは、シカゴのゴンドーフ(ポール・ニューマン)を訪ねる。ゴンドーフは、ギャング同志の争いでFBIから追われ、娼婦のビリーが経営している屋内遊園地で暮らしていたが、旧友がロネガンに殺されたと聞いて復讐に手を貸すことを決意する。
 2人はロネガンの身辺を洗い、彼がポーカーと競馬に眼がないこと、近々シカゴを訪れることなどを調べ上げた。そして、シカゴに向かう列車の中でゴンドーフはロネガンたちのポーカー賭博の仲間に入り、イカサマでロネガンに大勝ちする。しかもロネガンは、ゴンドーフの情婦に財布をスリ取られていたため負け金を払うことが出来なかった。翌日、ロネガンの宿にゴンドーフの勝金を取りにきたフッカーは、ゴンドーフのポーカーがイカサマであることを暴露し、怒ったロネガンに負け金の何十倍も稼げる話を持ち込んだ。ゴンドーフは詐欺仲間に召集をかけ「Sting」の準備を始める。しかし、彼らの動きはFBIの目にとまり始めていた。ロネガンの雇った殺し屋も執拗にフッカーの命を狙い続けている。フッカーを追うスナイダー(チャールズ・ダーニング)という悪徳警官もうろついている。果たしてフッカーとゴンドーフはルーサーの仇を討つことが出来るのか?圧倒的な権力を持つロネガンをどうやって騙すのか?
 「明日に向って撃て!」のジョージ・ロイ・ヒル監督、そして主演にロバート・レッドフォード、ポール・ニューマンという黄金トリオが再び結集した本作。全編は6つのパートに分かれ、それぞれにタイトルと挿絵がついた舞台劇風の展開で進行する。そして、何と言っても最大の見せ場はラスト。思わず拍手を贈りたくなるような、これほどまでに見事な終わり方をする作品は他にないだろう。
 入念に練られたシナリオ、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、ロバート・ショウらの名演技、カメラワークなど、何度観てもその面白さに引き込まれる。セピア調で統一された画面は、まさに古き良き時代のアメリカ。絵画を切り取ったような美術、衣装、照明、すべてが今の映画にはない格調を感じさせる。本作のカメラマンは名匠ロバート・サーティース。あの名作「ベン・ハー」や「卒業」などを手がけた名カメラマンである。また、スコット・ジョプリンが作曲したラグタイムの数々を見事にアレンジした音楽担当のマーヴィン・ハムリッシュ(1944年〜2012年)も「007/私を愛したスパイ」「追憶」「コーラスライン」を作曲したハリウッドを代表する人物である。これまでエミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞、ゴールデングローブ賞、ピュリツァー賞をすべて受賞した人物はハムリッシュとリチャード・ロジャースの2人しかいない。巧妙で完璧な脚本は、当時20代のディヴィッド・S・ウォード(「メジャーリーグ」の監督・脚本)によるもの。衣装デザインはイデス・ヘッドという女性デザイナー。彼女は「ローマの休日」や「麗しのサブリナ」「明日に向かって撃て!」をはじめヒッチコック監督の作品でも数多く衣装を担当している。彼女は本作で8度目の衣装デザイン賞を受賞している。こうして見ると、役者だけでなく製作陣も超一流揃いだったことが分かる。ちなみに、フッカー役のロバート・レッドフォードは、このオファーを1度断っており、次にジャック・ニコルソンに打診されるが彼も断っている。そして再度のオファーでレッドフォードに決定したそうだ。
 走るシーンがやたらと多い肉体派のロバート・レッドフォード(当時35歳)と、ほとんど動かない頭脳派ポール・ニューマン(当時47歳)という対照的な2人が、物語をテンポよくコミカルに盛り上げて行く。また、ゴンドーフが詐欺仲間に召集をかけるシーンも面白い。現在ならネットや携帯で仲間と連絡を取り合うところだが、作品中ではゴンドーフが仲間の近くまで行き、合図をして招集をかける。その合図というのが、指で鼻を触り相手も鼻を触ると〝了解〟という超アナログな方法なのだが、これが逆に新鮮で粋に見える。
 登場人物たちの駆け引き、心理描写、完璧な構成で、本当に面白い映画とはこういうものだと教えてくれる。ありきたりな表現ではあるが、名作という言葉がこれほどピッタリくる作品も他にないのではないだろうか。本作をまだ観ていないという幸運な人は、古いからと敬遠せず、騙し騙される快感を味わっていただきたい。

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