映画:忘れられない一瞬がある

「 ローズ・イン・タイドランド」
TIDELAND


鬼才の描くシュールで奇抜な世界観





 原作はアメリカの作家ミッチ・カリンの「TIDELAND(タイドランド)」という小説。テリー・ギリアムの大ファンだったミッチ・カリンは「タイドランド」を仕上げた際、読んで貰いたい、数行でいいから推薦文を貰えれば嬉しいと思ってゲラ刷りをテリー・ギリアムに送ったところ、それを読んだギリアムが物語を気に入り、映画化を申し出たという。
 前作の「ブラザーズ・グリム」では雇われ監督で、プロデューサーと衝突して揉めに揉めたテリー・ギリアムは、製作が一時中断した隙に「ローズ・イン・タイドランド」をさくっと撮り上げてしまったという。ギリアムは「この映画を作った理由のひとつは、僕自身の映画制作に対する情熱を再燃させたかったということ」と語っている。「ブラザーズ・グリム」でのストレスを発散させるように撮られた本作は、製作期間わずか2ヶ月という短さ。もちろん低予算なのでCGなども極力省かれている。しかし、それがテリー・ギリアムという映画作家の世界観を見事に表現する結果となった。
  10歳の少女ジェライザ・ローズ(ジョデル・フェルランド)は、ドラッグ中毒の両親と共に世間から隔絶された生活を送っていた。お父さん(ジェフ・ブリッジス)は憧れの〝ユトランド〟にローズと一緒に行こうと口癖の様に言うが、現実はドラッグを打って自分ひとり〝バケーション〟に行ってしまう。ある日、オーバードーズでお母さん(ジェニファー・ティリー)が急死、残されたローズとお父さんはテキサスへ旅立つ。ローズのトランクに入っているのはお母さんの形見のドレスと、頭だけのバービー人形が4つ。それぞれちゃんと名前のある友達だ。
 お父さんの実家があるテキサスの田舎に着いたローズとお父さんだったが、長い間誰も住んでいない実家は廃屋同然。しかもお父さんは早速ドラッグで〝バケーション〟に行ってしまい、翌朝になっても動かない。話し相手は頭だけ人形のみ、食べ物はピーナツバターのみ、という極限生活の中でローズは自分だけの想像世界を築き、不思議の国のアリスのように世界を探検する。そして、昔ハチに刺された為に片目を失い、今は剥製師をしているという女性・デル(ジャネット・マクティア)とその弟で幼少期に受けたロボトミー手術の影響で知能が10歳程度しかないディケンズ(ブレンダン・フレッチャー)と出会う。ディケンズは潜水艦を持っていて、草原の海でサメ退治をしているという。デルに邪険にされても、ディケンズと会話が噛み合わなくても、ローズはへっちゃら。おまけにディケンズ(推定年齢30歳前後)とは恋モードまで盛り上がって超ハッピー。しかし、眠ったままの筈だったお父さんから腐乱臭が漂い始め、それをデルに知られた事で、事態は急転する。なんとデルとお父さんは、昔恋人同士だったのだ。はたしてローズを取り巻く世界はどうなってしまうのか…。
 ギリアム版「不思議の国のアリス」と言われる事も多い本作だが、メルヘンなアリスをイメージすると大間違い。俺は撮りたいものを撮るんだ!というギリアムの想いが溢れたダークで奇抜な世界観だ。しかもR15指定なので世間的にタブー視されていることもバンバン描かれている。そしてラストに訪れる大事件。夢を現実に振り戻す手腕も鮮やかだ。
 ドラッグ漬けの両親や、いびつで不完全な大人たち。そんな絶望的な現実を、ローズは想像力で武装して突き進む。いつの時代も少女は大人を凌駕するほどに逞しく、そして残酷なのだ。監督自身「子供の力強い生命力こそ、最も恐れ、同時に敬愛する想像力の源だ」と言っている。タイトルの「タイドランド」は〝干潟〟という意味と〝境界領域〟という意味を併せ持っているそうで、まさに、少女と大人のはざま、純粋と残酷のはざま、空想世界と現実のはざまを意味しているのだろう。本作では金色の草原や、そこにぽつんと建つ朽ちかけた家、錆びついた車の残骸など、稀代のビジュアルアーティスト、テリー・ギリアムの映像センスも堪能できる。特にデルがローズの父親を剥製にするシーンや、ローズがデルの母親の剥製が寝かされている部屋に忍び込むシーンなどはギリアム節の真骨頂。歪んだ映像を使った悪夢のようなショットと、周囲に広がる明るい草原との対比が印象的で、まるでシュールな絵画を眺めているようだ。
 主演のジョデル・フェルランドは撮影当時9歳だったというが、監督が彼女にはほとんど演出らしい演出をしなかったという演技力には脱帽。しかも、4体の頭だけ人形のナレーションもこなし、それぞれにキャラまで植え付けている辺り、ただ者ではない才能を感じさせる。父親役のジェフ・ブリッジスは中盤から死体となってイスに座ったままだが、これも当たり役。ちなみに死体は人形で撮影する予定だったが、ジェフ・ブリッジス本人が死体役もやると申し出たらしい。
 世界一子供に見せたくないファンタジー映画などと言われ、非常に人を選ぶ作品ではあるが、ちょっとクレイジーな世界が好きな人、多少ブラックな映像も大丈夫、幅広いジャンルの映画を観てみたいという人におすすめしたい個性派の作品である。

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