映画:忘れられない一瞬がある

「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」
TROPIC THUNDER


愛すべきおバカ映画




  全米で公開されると、それまで独走状態だった「ダークナイト」を抑えて週末興行収入1位を獲得。全米で3週連続トップを続けて話題になった作品。監督・脚本・原案・製作・主演の5役をベン・スティラーがこなした入魂のコメディ映画。また、カメオ出演陣の豪華さも話題になった。  この作品は、まず本編が始まる前に仕掛けがある。冒頭、清涼飲料のCM1本と映画の予告が3本入る。CMはアルパ・チーノという名前の若い黒人タレントが出演。映画の予告1本目は、かつて大人気だったらしいアクションものシリーズの第4作(予算が削られているのがあからさまに分かる)、2本目は太った男が1人6役の下品なコメディ、3本目は中世の修道院を舞台にした文芸大作(助演はトビー・マグワイア)である。これがとても凝った物で、一見すると普通の映画予告と勘違いしそうになるが、この予告編も本編の伏線になっている。そして、いよいよ本編「トロピック・サンダー」が始まる。
 ベトナム戦争で英雄的な活躍をしたというアメリカ人兵士テイバック(ニック・ノルティ)のベトナム戦争回顧録〝トロピック・サンダー〟が映画化されることになった。撮影現場には、この作品で返り咲きを目論む落ち目のアクションスター、タグ・スピードマン(ベン・スティラー)、オナラ芸が売りのお下劣コメディアン、ジェフ・ポートノイ(ジャック・ブラック)、過去にオスカーを5度も受賞し、黒人の軍曹になりきるため手術で皮膚を黒くしてしまった〝超なりきり演技派俳優〟カーク・ラザラス(ロバート・ダウニー・Jr・)といったクセ者俳優たちが集結。しかし、撮影は俳優たちの個性とエゴがぶつかり合い、新人監督のコックバーン(スティーヴ・クーガン)が現場をコントロールできず、東南アジアのロケ現場は最初から迷走。撮影開始5日目にして予算を使い果たしてしまう。困り果てた監督は、テイバックの助言により、ジャングルに無数のカメラと爆発物を仕掛け、俳優たちを放り込んで迫真の映像を撮ることに。何も知らされず台本通りジャングルを徘徊する俳優たち。しかし、地元のゲリラ組織が俳優たちを見て「アメリカが攻めてきた」と勘違い。ゲリラVS俳優たちというバトルが始まることに…。
 あらすじだけを読むと、どたばたコメディのように感じるが、実は映画業界がテーマになっている。映画産業の裏話や、大金が浪費されてゆくハリウッド映画界の実態、アカデミー賞や演技論への風刺など、映画への皮肉と愛情が感じられる内容だ。スターの滑稽さや悲哀も描かれているし、そのモデルもじつに分かりやすい。コメディなので、数々の映画パロディも登場する。「プラトーン」「地獄の黙示録」「プライベートライアン」「ランボー」や「戦場に架ける橋」その他もろもろの名場面もリスペクトされていて、映画マニアにはたまらない作品に仕上がっている。
 ギャグの内容も、小学生必笑ネタからオスカー絡みの業界ネタ、身内いじり、自虐ネタなど、幅広い年齢層を網羅する周到さ。PGー12指定だけあって、バカバカしいスプラッター・ギャグやお下劣ギャグ、下ネタに加えて差別スレスレの演出などがてんこもり。最初は「なんて下品な!」と感じるシーンもあるのだが、これでもかこれでもかと繰り出されるハイテンションな小ネタの数々に、最後はお腹いっぱい。やりたい放題、良識派からのバッシングも上等の(実際に叩かれた)ブラックな笑いが炸裂している。  また、カメオ出演している有名俳優たちを探すのも楽しい。オスカー授賞式の候補者シーンで、車椅子のランナー役に扮していたトム・ハンクスや、ショーン・ペン、候補者席にアンジェリーナ・ジョリー風の女性と並んでいたジョン・ボイトなど、悪ふざけ度も秀逸。そして、何と言ってもビックリなのは一応カメオ出演扱いのトム・クルーズだろう。ハゲ頭、モジャモジャの体毛、メタボ腹でレス・グロスマンというプロデューサー役を演じている。このグロスマンが本編の美味しいところを全部持って行ってしまった感すらある。トム・クルーズが自らのイメージをかなぐり捨てて挑んだこの強烈な演技は話題を呼び、ゴールデングローブ助演男優賞にもノミネートされた。ちなみに、グロスマンに扮したトム・クルーズは、第19回MTVムービー・アワードに約2年ぶりに登場し、ジェニファー・ロペスとともに爆笑ダンスパフォーマンスを披露して喝采を浴びた。  ビックリと言えばロバート・ダウニー・Jr・の、「アイアンマン」と同一人物とは思えないなりきり黒人ぶりも凄い。本当の黒人である共演者にアメリカ黒人の悲劇の歴史を語り「あんた白人じゃん!」と突っ込まれたり、得意げな表情で語尾に「メ~ン」をつける話し方には笑ってしまう。本作でロバート・ダウニー・Jr・が本物のオスカー(助演男優賞)にノミネートされたというのも、なんとも皮肉が過ぎるというか、出来過ぎた話である。オーウェン・ウィルソンの代役で出演したマシュー・マコノヒーの軽薄な芸能エージェント役もなかなかいい味を出している。
 こんなおバカ映画を作るために全力で取り組む人たちがいる。(何しろ「ジュラシック・パーク」の撮影場所に8週間も滞在しての長期ロケ、最近のアクション映画と同等の火薬量を使用している)笑いのためにそこまで徹底する彼らの熱意が伝わって来て、なぜか胸が熱くなってくる。素晴らしいおバカ映画として映画史に残るであろう最高の娯楽作品だ。

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