映画:忘れられない一瞬がある
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」
Once Upon a Time in America


人生の儚さ、友情の切なさを叙情的に描いた名作





 監督のセルジオ・レオーネは、「ベン・ハー」を始め50本以上の作品の助監督を務めた後、「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「ウェスタン」を世に送り出し、世界中にマカロニ・ウェスタン・ブームを広めた巨匠である。そのセルジオ・レオーネが自ら『私の最高傑作』だと認めた作品がこの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」だ。  ハリー・グレイの自伝的小説に感銘を受けたレオーネが、「続・夕陽のガンマン」を撮り終えた頃から小説を元に自ら脚本を執筆していたが、従来のマカロニ・ウェスタンを監督させようとする映画会社の思惑や、小説の映画化権獲得に手間取り、脚本の草案を脱稿したのが1981年、実際に映画が公開されたのが1984年と、完成までに10年以上の歳月を費した。  常にアメリカへのオマージュを捧げ続けてきたレオーネのアメリカに対する思いが詰まった集大成とも言える本作を、彼の最高傑作と呼ぶべきか、それとも「荒野の用心棒」や「夕陽のガンマン」こそ彼の最高傑作と呼ぶべきか、意見が分かれるところだろう。しかし、彼が生前わずか7本の作品しか残さなかったことを考えると、どちらも重要な作品であることは間違いない。  「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の完成後、レオーネは次回作としてレニングラード包囲戦を描いた戦争映画の製作を開始する。しかし、脚本執筆中に過労による心臓発作で1989年4月30日、60歳で逝去した。  音楽を担当したのは、こちらも巨匠エンニオ・モリコーネ。レオーネとモリコーネは小学校の同級生で、仕事のみならずプライベートでも親密な交際を続けていたという。モリコーネの哀愁に満ちた楽曲は、作品の美しい映像と相まって、旧友レオーネの遺作をより格調高いものに仕上げている。  しかしこの名作も、アメリカでの公開当初は製作側の意図によって物語の時系列が整理されてしまい、モリコーネの音楽も挿入されていなかったため不評だった。この製作側の行為にレオーネ自身も深く落胆したそうだ。しかし、その後レオーネ自身の編集によって完全版が作り上げられ、再びアメリカで公開されると、ギャング映画の傑作として高い評価を受ける結果となった。これは、製作側が己の都合で作品をいじくり回すと、ろくな結果にならないという良い教訓だろう。  物語の主な舞台は1920年代から30年代のニューヨーク。主人公はそこで育ったギャングの1人、ヌードルス(ロバート・デ・ニーロ)である。ユダヤ移民の子どもたちが自衛のためギャング団を組織し、やがて崩壊していく姿が、少年時代(1920年代)・青年時代(1930年代)・老年時代(1960年代)と3つの時代に分けて描かれている。  物語の冒頭でヌードルスは、3人の仲間を警察に売ったという濡れ衣を着せられ、組織の裏切り者として追われている。間一髪の所でニューヨークから逃げたヌードルス。そして30年後、彼は再びニューヨークへ戻ってくる。隠れて暮らしていた彼の元に、殺された3人の仲間の墓を移転したという送り主不明の手紙が届いたからだ。  かつてのアジトであるモーの店に立ち寄った彼は、手紙の送り主が誰なのか、そして本当の裏切り者は誰だったのかを考えながら、この町で過ごした頃の思い出を振り返る。それは、少年時代から青年時代にかけての、親友マックス(ジェームズ・ウッズ)との出会い、友情、葛藤、挫折の思い出だった…。  この作品は、時系列がばらばらに配置されているので、1回でストーリーを全て把握するのは難しいかもしれない。本当なら2度3度見た方が良い作品ではある。しかし、作品の印象は1度観るだけで充分に感じ取ることができる。また、3時間49分という長編だが、冒頭で主人公の老年期が映し出され、(どうしてこれはこうなったんだろう?)という謎が最後まで持続するため、全く飽きることはない。場面の展開も巧みなので、違和感なく一気に観ることができる。これは、やはり監督の手腕なのだろう。  そして、全編を彩る美しい映像。100億円近い制作費の大半をかけて、舞台となる1920年代のマンハッタンを再現したという街並みは、最高に美しく芸術的である。ロケ地もアメリカにとどまらず、ローマ、パリ、ロンドン、ヴェニスなどヨーロッパ各地に及んでいる。そして、ブルガリの宝石、フェンディの毛皮、ボルサリーノの帽子、イタロ・ガスパルッチの籐家具など、小道具も豪華絢爛である。  余談になるが、ヌードルスがデボラのために貸し切りパーティを開くシーンの撮影場所は、ヴェニスの「オテル・ドゥ・バン」で、ルキノ・ヴィスコンティ監督の名作「ベニスに死す」の冒頭シーンで登場した有名な超高級レストランである。  ゆったりと丁寧に描かれた映像、あくまでも男同士の友情と裏切りにこだわり続けるレオーネの演出、そして、20代から60代までを演じ切ったデ・ニーロもさることながら、破滅型のマックスの狂気と孤独を演じ切ったジェームズ・ウッズ、ヌードルスが憧れるデボラの少女時代を演じたジェニファー・コネリーの美しさなど、キャスト陣の名演も忘れられない。  マックスがヌードルスに最後に頼んだこと、それに対してヌードルスがとった行動、そしてラストシーンのデ・ニーロの笑顔…。  このラストシーンの意味をどう捉えるかによって、解釈が全く変わる作品でもある。デ・ニーロの笑顔があまりに象徴的で、今もなおその解釈を巡っての議論は続いている。映画が公開されて30年以上経った今でも、ラストシーンの解釈が話題になるというのも名作たる所以だろう。   once upon a time(むかしむかし) というタイトルの示す通り、まさに古きアメリカの断面を描いた名作。人生のほろ苦さを知っている大人にこそ、ぜひ見て頂きたい1本である。
映画トップ