映画:忘れられない一瞬がある

「ウォーム・ボディーズ」
Warm Bodies



イケメンゾンビの胸キュン・ラブストーリー




 原作はアイザック・マリオンの小説「ウォーム・ボディーズ ゾンビRの物語」。主人公のRを演じたニコラス・ホルトは「マッドマックス 怒りのデス・ロード」や「X–MEN」シリーズに出演している注目の若手俳優である。ジュリー役は「明日、君がいない」のテリーサ・パーマー、ジュリーの父親役にジョン・マルコビッチが出演している。
 舞台は謎のウィルスで人類の半数がゾンビと化した近未来。生き残った人間たちは、高い壁を築き、ゾンビたちと闘いを続けている。Rはゾンビだが、まだ人間としての意識を保っている。Rが徘徊している空港には他にもゾンビがたくさんいて、みんな空港内をウロウロしている。この世界のゾンビには段階があり、ゾンビには知性や感情が残っている。しかしゾンビ化が進み、すべてに絶望してブチ切れるとガイコツになって一切の人間性が失われてしまう。ガイコツは心臓の脈打つものなら何でも食べる化け物だ。Rは、いつか自分もガイコツになってしまうことに絶望し、こんな毎日から抜け出したいと思いながら日々を過ごしている。
 そんなある日、仲間と〝 食糧〟を探しに出たRは、人間の一団と遭遇する。襲いかかるゾンビ軍団と、それに応戦する人間たち。壮絶な戦いの最中、Rは人間の女の子ジュリーに一目惚れし、彼女を自分が住処にしている飛行機に連れて帰ってしまう。(他のゾンビたちはジュリーもゾンビだと思っている)ゾンビに怯え、拒絶するジュリーを外は危険だからと引き留めるR。結局、ジュリーは飛行機の中で2、3日過ごしてから家へ帰ることを承諾する。単語しか話せないRは、レコードをかけることで自分の思いを伝えようとする。そんな不器用だけど一途なRの純粋さに触れ、次第に心を開いていくジュリー。Rもジュリーと交流する中で暖かな気持ちが広がっていくのを感じる。しかし、Rがジュリーのボーイフレンドを殺したのは自分だと告白した翌日、ジュリーはRの元を去ってしまう。その頃、Rとジュリーが手を繋いでいる姿を見た他のゾンビたちの心も暖かく脈打ち始めていた。そして、その事に怒ったガイコツたちはRとジュリーを探し始める。ジュリーの身に危険が迫っていることを知ったRは、ゾンビたちが変化していることを伝えるため人間の世界へ忍び込む。そして脳を食べたことによって得ていた記憶を頼りにジュリーの家へと辿り着く。はたしてRの行動は終末を迎える世界に希望を甦らせることができるのか?相容れない二人の恋はどうなってしまうのか…。
 ジャンルで言うとラブコメディーになるのだが、金字塔であるジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」をリスペクトしているシーンもあり、この監督はゾンビが好きなんだなぁと嬉しくなる。冒頭、ゾンビたちがヨロヨロと床掃除をしたり、セキュリティチェックの作業を続けていたりという描写の中、Rのモノローグで話が進む。(なんでこんなことになったんだ?ゾンビはイヤだ。寂しくさまよって…)なんてことを考えたり、他のゾンビを見て(気持ち悪いからこっち見んな)なんて思っている。Rと友達ゾンビMとの会話もかなり笑える。そして、ゾンビが人間の脳を食べることで人間の記憶や感情を追体験できるという設定も面白い。Rは人間を食べる自分を(恥ずかしい)と分かっていながら一時的にでも人間に戻りたいという欲求を抑え切れずジュリーのボーイフレンドの脳を食べてしまう。そしてジュリーに恋してしまうのだ。ジュリーがゾンビを怖がっている理由も追体験したRは(キモいのはダメ、キモいのはダメ…)と言い聞かせながら一生懸命ジュリーを守りたい気持ちを伝えようとする。上手く喋れない自分に(死にたい気分。死んでるけど)と思いながら。
 もうひとつ斬新だったのは、ゾンビが血色のいいメイクをして人間社会に紛れ込むという展開だ。人間がゾンビのフリをして危機を脱するというパターンはあるが、ゾンビがこってりファンデーションとチークを塗って人間に化けるなんて画期的すぎて感動してしまった。また、本作はRだけでなく、ゾンビ仲間も人間だった頃を思い出して変わっていくというのが良い。遠い記憶の中で大切な人が隣にいたことを思い出し涙ぐむゾンビたち…。彼らの心臓が暖かく動き始めるシーンは感動的だ。
 本作はゾンビ版「ロミオとジュリエット」というコンセプトなので、ご都合主義な箇所も確かに多い。しかし、こういうタイプの作品に真面目なツッコミを入れるのは不粋だ。どちらかというと寓話性の高い物語だと捉えるべきだろう。ジョン・マルコビッチ演じる人間軍のリーダーは、ゾンビの徘徊するエリアと人間の住むエリアを高い防護壁で隔てている。暖かい心を取り戻したゾンビと、それを知らない人間の間にある壁は、物理的な壁ではなく人間たちの恐怖や猜疑心だ。しかし、お互いに変わること、歩み寄ることで新しい世界を築くことは可能なのだ。
 また、本作のゾンビという存在は、希望を見いだせない人間を抽象的に描いているようにも思える。(何か望むから心が傷つくんだ。今のままで満足しろ。現実は変わらない。心を閉ざせ。苦しまなくて済む。)というRの独白は、生きる意味を見つけられず孤独に過ごしている人間と同じではないか。そう考えると、この作品に込められたメッセージは深いのかもしれない。もちろん、基本はコメディーなので笑い所も随所にあって楽しめる。恐ろしいゾンビものは無理という人でも(多分)大丈夫。女性におススメの1本である。

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