映画:忘れられない一瞬がある

「ズーランダー」
Zoolander l


おバカなスーパーモデルが世界を救う!?





ベン・スティラーが製作・監督・脚本・そして主演まで務め、妻(この作品での共演がきっかけで結婚)と両親、妹、さらに義理の兄、公私共に仲が良いオーウェン・ウィルソン、ウィル・フェレル、ヴィンス・ヴォーンという顔ぶれが揃った、ある意味スティラーファミリー・ムービーのような本作。多数のセレブがカメオ出演している事でも話題になったが、その顔ぶれに驚く隙を与えない程、笑いの波状攻撃が襲いかかるコメディ作品だ。ちなみに映画公開時のキャッチコピーは「3%の体脂肪率。1%の知能。彼の名は…」。
 世界的人気を誇るスーパーモデル、デレク・ズーランダー(ベン・スティラー)は、3年連続最優秀男性モデル賞を受賞している。しかし、4年連続受賞を期待していた授賞式は、新人のハンセル(オーウェン・ウィルソン)によって阻まれてしまう。おまけに勝手に自分が受賞したと思い込み、意気揚々とステージに上がってトロフィーを掴んだ瞬間に間違えたことに気づくという失態をさらしてしまい、一夜にして世間の笑い者に。次の朝、落ち込んでいるデレクを慰めようとした3人の友人たちとスターバックスにオレンジ・モカ・フラペチーノを飲みに行くが、ガソリンスタンドで盛り上がってガソリンをかけあい、タバコの火が引火して全員爆死。失意の中デレクは故郷へ帰り、炭鉱夫として働くことを決心する。
 所変わって、児童の労働に反対の意を示したマレーシアの首相。首相は未就学児の勤労を禁止する政策を打ち出し、そのヒューマニズム溢れる政治姿勢で世界的に支持を得ようとしていた。しかし、その政策が世界に及ぼす影響を快く思わない謎の組織が、自分たちの利益を守るために首相を暗殺できないかと会議する。そして、メンバーの1人で世界的に有名なデザイナー、ムガトゥ(ウィル・ファレル)が暗殺を任される事になる。同時にメンバーのカティンカ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)がサポートに就いた。その頃、鉱山で炭鉱夫の仕事をしていたデレクだったが、今までモデルしかやったことがない彼は失敗の連続。炭鉱夫の仕事は無理だと家族からも諭される。そんなデレクの元に、ムガトゥから最新作のモデルをしないかという依頼が。しかし、そのオファーには危険な企みが隠されていた…。と、あらすじだけを読むとシリアスそうだが、このストーリーに脱力系お馬鹿ギャグがまんべんなくコーティングされていると考えていただきたい。
 話の流れはデンゼル・ワシントン主演でリメイクされた「影なき狙撃者」が元になっているのだが、そこにモデル業界をネタにした笑いを徹底的に散りばめながら、嫌味に感じさせない手腕はさすが。モデル=頭が悪いという構図で、とにかく出演者がとことんおバカなのである。さらに80年代のアイコンとPV風の映像が盛り込まれているので、80年代に青春を過ごした者には懐かしさも感じられる。デレクが事あるごとに見せる ブルー・スティール というキメ顔もツボ。しかし、この作品の素晴らしい所は(バカだけど、いい奴らなんだよね…)と、途中から彼らに愛情すら感じてしまう演出だ。「殺し屋に最適なのは、ノータリンのウスノロ、間抜け男、だから昔からモデルが暗殺者として使われてきた」とか、ムガトゥは、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの元メンバーだったとか、だから洗脳されたデレクが殺しを始める合図は「リラックス」だとか、設定も非常に細かい。実は全てが綿密に計算され、しっかりと脚本も練られていて、演出も配役も全てが絶妙にマッチした作品なのだ。中盤からはライバルであるハンセル(こっちも真性のおバカ)と和解し、暗示にかけられたデレクと2人のバカっぷりが融合し、怒涛のラストへと流れ込む。デレクが最後の最後に完成させた究極のキメ顔 マグナム によって世界が平和になるというオチには思わず脱力してしまう。
 ちなみにデレクとハンセルが対決するシーンのBGMはM・ジャクソンの「ビート・イット」。なぜかキャットウォークで対決するのだが、そのレフェリー役はデヴィッド・ボウイである。授賞式にも有名人たちが本人役で出演している。ナタリー・ポートマン 、レニー・クラヴィッツ、クリスチャン・スレイター、キューバ・グッディング・jr、スティーヴン・ドーフ、クラウディア・シファー、ヴィクトリア・ベッカム 、ウィノナ・ライダー 、パリス・ヒルトン、カールラガーフェルド、ヴィンス・ヴォーンなどなど。カメオ出演しているセレブを探す楽しさも、この手の映画のお約束だ。
 他にも笑えるネタがテンコ盛りなのだが、授賞式でのズーランダーを紹介するVTRが秀逸。VTRの中で、デレクが「カレンダーは僕の色々な表情を見せてくれる」とか語っているのだが、そこに映し出されている映像は全部同じ表情 ブルー・スティール が掲載されているカレンダー。見せてないじゃん!色んな表情見せてないじゃん!対するハンセルも背中にでっかい翼をつけて「僕は多くの普通の子供みたいに宇宙飛行士を目指したりしなかったんだ。ただ木の皮が何で出来ているのかということに興味があったんだ」と意味不明なことを超カッコ良さげに喋るプロモーション映像。
 この ブルー・スティール ネタは終盤でも披露されるのだが、これがじわじわとみぞおちに効いてくる。そして、ボーナストラックに収録されたデレクのインタビューで完全KO。徹底しておバカなデレクの虜になってしまうこと間違いナシ。何も考えずに観られるのに、観ると元気になれるという素晴らしい作品だ。正直言ってこの作品を観るまでベン・スティラーはどちらかというと苦手な役者さんだったのだが、すっかり見る目が変わってしまった。コメディ映画は数あれど、この作品には一度ハマると繰り返し観たくなる中毒性があるので常に手元に置いておきたい一本だ。ところで、この「ズーランダー」を観た方に質問。 ブルー・スティール と マグナム の違い、分かりました?

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