太古の声が聞こえる…屋久島
  きっと自分はちっぽけだと思い知りたいのだ。


世界遺産 屋久島 大川の滝 世界遺産 屋久島 縄文杉
世界遺産 屋久島 原生林風景
世界遺産 屋久島 ヤクスギランド内 世界遺産 屋久島 シャクナゲと黒味岳






 目指す屋久島は、鹿児島から船で2時間半。(※飛行機で約40分)本土最南端の佐多岬の南方約65キロメートルの洋上に浮かぶ、隆起花崗岩でできた周囲120キロ程の島だ。
 わずかな海岸平野を除いては、海からいきなり1000メートルから1200メートルの前岳がそびえ、さらにその後ろには奥岳とよばれる険陵な山々が控えている。海上からその姿を望むと、海抜0メートルからいきなり2000メートル近くまでの圧倒の高度差を見る事ができる。圧巻!である。


 特に奥岳はユネスコの世界自然遺産登録地であり、その森は海岸部の亜熱帯性気候から、山頂部の亜寒帯性気候まで垂直的に植生が変化しており、なんと1273種もの植物が見られる。

 まさに自然の宝庫である。

 珊瑚礁の海から立ち上る水蒸気が雨となり、島に降り注ぐ。年間雨量は10000立方メートルに及ぶ。大量の水分を含んだ森は分厚い苔に被われ、激流が大地をうがつ。森には息苦しいほど濃密な生命の気配が立ち込めている。


 その森の中を、かつて木材を運び出す為に建設されたというトロッコ道に沿って、「老人」を目指した。

 「屋久杉」とは屋久島に生える樹齢1000年以上の杉を指し、その中でも特に特徴的なものに「大王杉」「夫婦杉」「縄文杉」などといった名前が付けられている。
 種としてはいわゆる普通の杉であるらしい。通常杉の寿命は500年程といわれている。しかしながらこの島では、栄養の乏しい花崗岩の山地で育つ為に成長が遅く、ゆえに綿密で樹脂分の多い腐りにくい、何千年も生きることが可能なボディを手に入れる結果となったのだそうだ。さらに、高温多湿の風土が多くの着生植物を育て、屋久杉独特の異様な形状を形成したのである。

 また皮肉な事に(幸な事に?)その風貌ゆえに木材としての利用価値が低く、昭和30年代から急速に進む森の開発による伐採を免れたのである。
 開発以前の森の姿を知るものは、現在の「自然の宝庫」との表現に少なからず抵抗があるらしいと聞くが、それでもやはりその豊かな森を前にして平静を保つ事は出来かねる。破壊された後としてこのスケール。では、人々が森を「神」として恐れ、一切の生産活動(伐採)を禁忌としていた時代はいか程のものであったろうか。

 つらつらとそんな事を考えながら、深閑な森を歩く。
 この森は映画「もののけ姫」のモデルにもなったそうだ。私は特に信仰というものを持たないが、それでもやはりこの森には「もののけ」や「神」が潜んでいるのではないかと思わせる雰囲気がある。




   『屋久島の山中に一人の聖老人が立っている
    齢(よわい)およそ七千二百年という
    ごわごわとしたその肌に触れると
    遠く深い神聖な気が染み込んでくる
    聖老人
    あなたは この地上に生を受けて以来
    ただのひとことも語らず ただの一歩も動かず そこに立っておられた
    それは苦行神シヴァの千年至福の姿にも似ていながら
    苦行とも至福ともかかわりのないものとしてそこにあった
    ただ そこにあるだけであった
    あなたの体には幾数十本もの他の樹木が生い茂り あなたを大地と見なしているが
    あなたのごわごわとした肌に耳をつけ せめて生命の液の流れる音を聴こうとするが
    あなたはただそこにあるだけ 無言で 一切を語らない
   (中略)
    あなたが黙して語らぬ故に 
    わたくしは あなたの森に住む 罪知らぬ一人の百姓となって
    鈴振り あなたを讃える歌を歌う』

(山尾三省「聖老人」、『聖老人、百姓・詩人・信仰者として』野草社、1988年所収※山尾三省は60年代安保に破れた後、数年を経て、屋久島に数家族と共に住んでいる。)




 老人はゴツゴツとしたコブを持ち、おびただしい着生植物にその体を譲借しつつ、ねじれ、よじれ、荒々しく根を張り、そこに構えていた。
 とても静かに。

 屋久島の巨木は生きながらにして内部から朽ちるという。
 朽ちて、自らが次世代の苗床となるのだそうだ。
 樹齢や風貌、その生態を擬人化して崇めるのは馬鹿馬鹿しいと笑う人もいるだろう。
 それでも、やはり、私はこの「老人」から何かを得たのではないかと感じている。
 この一粒の種が芽を出した頃、日本列島にはまだ「国家」すら存在せず、人は鹿狩りなどをして暮らしていた。


 想像を越える、はるか太古の話である。



資料提供/屋久島環境観光課


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